経団連くりっぷ No.164 (2002年2月14日)

在中南米諸国大使との懇談会(司会 岸 曉 副会長/中南米地域委員長)/1月18日

変貌する中南米市場


中南米諸国大使会議に出席するため一時帰国中の駐中南米諸国大使および外務省の西田芳弘中南米局長を招き、中南米各国の情勢を中心に説明をきくとともに懇談した。以下はその概要である。

  1. 西田中南米局長
  2. 中南米諸国は民政移管が一通り行われ、制度面での民主主義が定着した。しかし、実態面での民主主義の深化が問われている。また、経済面では自由化政策が効を奏している一方、ネオ・リベラリズムへの反発も表面化してきている。国際面では大きな動きが2つある。第1は、地域統合の拡大・深化である。二国間とサブ・リージョン間の統合が、重層的に構築されつつある。第2は、中南米の動きに欧米諸国が積極的に対応していることである。最近では中国や韓国など東アジア諸国も中南米への関心を高めている。失業問題、治安の問題もあり、今後の情勢を把握することが重要である。昨今の混迷するアルゼンチン情勢が長引き、その悪影響がブラジル等近隣の他のラテン・アメリカ諸国へ波及するかどうか予断を許さない状況にある。

  3. 渡辺駐アルゼンチン大使
  4. 昨年12月に大統領が次々に交代するなど、予想不可能な政治社会情勢が続いている。一連の金融規制により一般庶民の不満が爆発し、社会暴動へと結びついた。ドァルテ新大統領(任期2003年12月迄)はデファルトを宣言するとともに、銀行・金融機関業務を1月11日から再開した。今回の経済危機発生の要因として4つ挙げられる。第1に、ペソとドルの兌換制の行き詰まりである。ペソの流通量を外貨準備の範囲内に抑える本制度は、ハイパーインフレ対策としては有効であったが、外貨準備が少なくなると機能しなくなる。第2の要因は、昨年9月時点で1,400億ドルに上る累積債務である。第3は政治不安。最後に、IMFと米ブッシュ政権が対亜支援姿勢を厳しくしたことが挙げられる。

  5. 成田駐チリ大使
  6. 政治面では、中道左派と右派との連立政権で安定している。経済面でも、近隣諸国と比べて安定している。2000年度の経済成長は3%強であった。過去6%台の成長を維持してきたが、銅などの一次産品価格低迷や米国経済の減速、構造改革の遅れ等により、鈍化傾向にある。また、FTAについては米国、EU、韓国と交渉を進めてきており、米国とEUとは年内中にも交渉をまとめる方向にある。

  7. 鈴木駐ブラジル大使
  8. カルドーゾ政権にとって2期8年目の最後の年であり、本年は大統領選挙の年にあたる。まだ混沌とした状況にあり、誰が次期大統領になるかわからない。現大統領のように海外でも知名度が高く、外交にも内政にも強い人物はいない。大統領選は、国内・内政型の候補による選挙戦になることが予想される。2002年度の経済成長は2%、インフレ率4%台で推移、財政、貿易収支もそこそこ、ドル・レアル為替レートも安定するとみている。貿易関係で顕著なことは、対中国貿易(大豆、鉄等)が急増していることである。

  9. 木谷駐ペルー大使
  10. ペルーの政治動向は、過去2年にわたって混乱してきた。これまでの流れをみると2000年11月にフジモリ政権が崩壊、パニアグア国会議長が暫定大統領に就任し、2001年4月の大統領選挙でトレド氏(ペルー・ポシブレ党)が当選し、同年7月に大統領に就任した。トレド大統領はフジモリ疑惑の解明を選挙公約とし、フジモリ前大統領の引渡しを日本政府に要求したため、対日関係悪化が懸念された。しかし、最近になりやっと落ち着きを取り戻しつつある。一方、憲法改正の問題が浮上してきている。

  11. 堀村駐メキシコ大使
  12. フォックス政権が成立して1年2ヵ月が経った。支持率も60数%と依然人気は高い。財政、エネルギー、人権の三大改革に取り組んでいるが、まだ実績はない。国内景気は良い。但し、米国経済の減速と同時多発テロの影響で、沈滞ムードも出てきた。対外関係では、メキシコは本年末、中南米諸国ではじめてのAPEC 首脳会議を主催する。FTAについては、メキシコは既に32カ国と締結している。メキシコは日本と早期にFTAを締結したいと願っている。FTAの経済効果はNAFTAなどで実証されており、メキシコは日本とのFTAで特に投資の拡大を期待している。最後に、治安の問題に触れたい。被害者の多くはメキシコ企業関係者であるが、そのうち外国人へ波及することが懸念されている。

  13. 質疑応答
  14. 室伏日本ブラジル経済委員長:
    次の大統領は誰になりそうなのか。また昨年、アマラル商工大臣が来日した際、米国と中南米とのFTAAを積極的に推進していく意向を表明した。そうなると、日本とブラジルの関係はどうなるのか。

    鈴木大使:
    カルドーゾ大統領は歴代の大統領の中でも異例の国際派である。大統領就任以前からの国際的知名度も高く、真の国際人である。ブラジル政界には伝統的に国内・内政型の人材しかおらず、次期大統領選挙もその中で争われることになる。アマラル商工大臣は日本とのFTA締結を日伯経済関係の再活性化の手段と位置づけている。

    川本日本メキシコ経済委員長:
    日墨FTAは最大の関心事である。FTAに対するメキシコ側の態度に変化はみえるか。

    堀村大使:
    メキシコ側の対日FTA戦略は変わっていない。メキシコ側は日墨FTAにより二国間関係の緊密化を期待しているが、どれだけ改善されるか疑問である。枠組みと中身は分けて考える必要がある。

    佐々木日本アルゼンチン経済委員長(日商):
    アルゼンチンについては、今年、日智合同経済委員会を東京で開催する予定である。従来の総花的なテーマではなく「鉱業」「農業」「IT」に絞って開催したいと考えている。

    渡辺大使:
    アルゼンチン側も合同会議への期待は大きい。いま紹介のあった3つのテーマと、アルゼンチン経済全体についての説明があれば良い会議ができるのではないか。

くりっぷ No.164 目次日本語のホームページ