経団連くりっぷ No.164 (2002年2月14日)

貿易投資委員会総合政策部会(部会長 團野廣一氏)/1月21日

WTO閣僚会議の評価と米国政府および民間の今後の対応


米国の Powell, Goldstein, Frazer & Murphy 法律事務所の通商担当弁護士5名より、昨年11月のWTO閣僚会議で決定された新ラウンドについて、今後の交渉の焦点と米国政府および民間の評価について説明をきくとともに意見交換を行った。

  1. 交渉の日程と枠組み
  2. 新ラウンドのデッドラインは2005年1月1日までの3年間と設定されている。米国政府は、産業界もウルグアイ・ラウンドのような長期にわたるラウンドは望んでいない。ジュネーヴWTO本部では、当面、交渉の枠組みづくりが行われていく。いかなる交渉組織が形成されるかで各事項のトレード・オフの条件が異なってくることから、各国の戦略上、非常に重要な決定事項となる。

  3. 主な交渉項目
  4. (1)農業
    日本の産業界にとって「人質」となるだろう。EU等の輸出補助金の削減が最も困難な交渉課題となる。

    (2)サービス交渉
    先進国は自由化推進を望んでいるが、農業輸出国は金融交渉の人質としてサービス交渉を利用しようとしている。ASEANは、更なる自由化約束には否定的である。

    (3)鉱工業品関税の引き下げ
    日本とEUは、タリフ・ピークを減らすためにフォーミュラ・カット方式を用いることを望んでいるが、米国は繊維等を抱えているため反対している。米国はゼロ・ゼロ方式を通じた紙、コンピュータ等の関税引き下げを望んでいる。

    (4)アンチダンピング
    アンチダンピングについては、米国は、途上国によるアンチダンピングの濫用を防ぐため手続の透明性向上を重視しているが、米国国内法の弱体化をもたらすような交渉は認めないであろう。また、WTOに加盟した中国からの輸出攻勢に備えて、多くのWTO加盟国が国内産業の防衛手段としてアンチダンピングを考えていることも留意する必要がある。

    (5)投資
    多くの加盟国が受け入れ可能なレベルの低い多国間投資協定を目指しているが、米国は二国間投資協定の基準を下回る多国間の協定には興味がない。二国間投資協定では、国家対投資家の紛争処理システムで投資家保護を確保できるが、多国間協定では国家対国家になる。日本企業もレベルの低い多国間投資協定に頼るのが唯一の手段かどうか検討してみてはどうか。例えば、日本が二国間投資協定を持っていない国に投資する際、二国間投資協定を持つ国の企業と合弁で投資を行えば、利益を享受することができる。

  5. 日本の産業界にとっての課題
  6. 米国の産業界はそれほど新ラウンドには熱狂的ではない。一方で、米国にとって一番重要なのは農業の自由化であり、米国がFTAを超えてどこまで多角的貿易交渉に関心を持つことができるかどうかは、農業交渉にかかっているといえよう。


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