経団連くりっぷ No.165 (2002年2月28日)

経団連意見書/2月19日

「税制抜本改革のあり方について」をとりまとめ


小泉政権は「努力が報われる税制」を目指し、税制抜本改革の検討に着手した。すでに経済財政諮問会議、政府税制調査会において議論がスタートしている。経団連では、税制抜本改革論議に経済界意見の反映を図るため、税制委員会(委員長:森下洋一 副会長)において検討を行い、2月19日、標記意見書をとりまとめた。以下はその概要である。

税制を経済活性化のための重要無比の政策手段と位置付け、従来の経緯にとらわれない大胆な措置を講ずるべきである。「税制版改革工程表」を作成し総合的・計画的に実行することが必要である。

I. 現行税制の総括−今なぜ、税制抜本改革か

現行税制は限界を露呈しており、白地から新たな税体系を描くことを視野に入れた改革が必要である。

  1. 課税ベースが浸食され税制が複雑・不公平・非中立化。また、高い税率や累進税率構造が経済・社会の活力を阻害
  2. 一般歳出を税収が長期間下回り、累積債務が増加
  3. 国・地方を通じた歳入・歳出構造のねじれが地方自治体の自立意欲を阻害
  4. 直接税中心の税体系は経済活力に悪影響。世代間の不公平も拡大(現行税体系は持続不可能)
  5. 単年度収支のつじつま合わせにより、政策手段としての税制の機動的活用が不可能

II-1. 日本経済社会のあるべき姿(構造改革の先にある日本)

  1. 民需主導の「着実な経済成長」の確保
  2. 「全員参加型の社会」の構築(誰もが能力を発揮でき、努力が報われ、必要な負担をする)
  3. 世界の人々、企業が集う「魅力ある日本」の実現、環境と経済が両立する「循環型社会」の構築
  4. 少子高齢化時代に経済活力を維持できる「持続可能な経済社会システム」の再構築
  5. 「個性あふれる地域社会」の実現

II-2. 税制改革の理念

単年度の収支にこだわることなく、中期的なスパン(当面5年間程度)での収支均衡を前提に改革を進めるべきである。

  1. 経済活性化の視点を最重視した、「個人・企業の活力を引き出す」税制の構築
  2. 課税ベースの適正化と累進税率構造の緩和(国民が「広く薄く負担を分かち合う」)
  3. 経済・産業のインフラとして、欧米・アジア諸国に比べ遜色のない税制の整備
  4. 社会保障制度改革、財政構造改革との一体的な推進(持続可能な「骨太」の改革)
  5. 国・地方を通じた行財政改革の徹底を前提に必要な財源を確保するに足る税制の構築

III. 当面の経済再生のための税制措置

デフレ・スパイラルからの脱却を目指し、平成15年度改正を待つことなく早急かつ大胆な措置を講ずることが必要である。

  1. 住宅投資・消費促進策としての贈与税の活用

    1. 住宅取得資金等の贈与に対する特例の拡充(非課税枠を1,100万円に倍増)
    2. 消費促進のための基礎控除額の時限的引き上げ(現行110万円→1,000万円)

  2. 住宅投資減税の拡充

    1. 現行住宅ローン税額控除制度の拡充
    2. 住宅ローン利子所得控除制度の創設(現行住宅ローン減税との選択制)

  3. 不動産流動化・都市再生のための税制措置

    1. 不動産流通課税の見直し
    2. 土地の集約・有効利用の促進に向けた税制(都市再生の強力な推進)
    3. 不動産証券化等に係る課税の軽減
    4. 固定資産税等の負担水準の適正化

  4. 投資減税(重点7分野を中心に投資額の一定割合を税額控除)

IV. 経済活性化のための税制の活用

税制が経済活性化のための不可欠の政策手段であると認識した上で、その大胆な活用を図るべきである。

  1. 個人所得課税の抜本改革(税率のフラット化、課税最低限の引き下げ)

  2. 企業活力と法人税

    1. 研究開発の促進(新たな研究開発支援税制の創設を含めた抜本的改正・充実)
    2. 減価償却制度の抜本的見直し
    3. 法人税制の国際的なイコールフッティング化(基本税率の引き下げ等)
    4. 欠損金の繰戻し還付・繰越控除期間の拡大
    5. 創業・ベンチャー支援税制の拡充
    6. 事業体課税−LLC、LLP税制の構築

  3. IT化に対応した税制措置

  4. 相続税・贈与税の見直し(最高税率の引き下げ、累進税率構造の緩和、基礎控除額の引き上げ、事業承継の円滑化等)

  5. 金融資本市場の活性化

    1. 確定拠出年金の拠出限度額の撤廃
    2. 金融証券税制の見直し
    3. 二元的所得課税の検討

V. 適正な国民負担の実現

  1. 行政サービスの受益と負担

    1. 赤字法人課税(法人の応益課税のあり方)
    2. 道路特定財源のあり方

  2. 持続可能な社会保障システムの構築

  3. 消費税のあり方(インボイス方式の導入、免税点・簡易課税制度の見直し等)

VI. 循環型社会の構築

VII. 国民生活の変化への対応

  1. 少子・高齢化の進展と世代間の公平

    1. 公的年金等控除の縮小・廃止、社会保険料控除のあり方(年金税制の整備)
    2. 生損保料控除のあり方

  2. 女性の社会進出と税制

    1. 配偶者控除、配偶者特別控除の縮減
    2. 世帯から個人への課税単位の段階的変更

VIII. 地方分権の推進

  1. 国と地方の財源見直し

    1. 一層の地方行財政改革の徹底と地方分権の推進
    2. 地方独自課税のあり方
    3. 地方課税の抜本改革

  2. 地方法人課税の簡素化

  3. 個人住民税の見直し(所得税改革と並行)


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