経団連くりっぷ No.165 (2002年2月28日)

アジア大洋州地域大使との懇談会/2月1日

アジア・大洋州各国の最新の情勢


経団連では、日本商工会議所とともに、アジア大洋州地域9ヵ国の大使を招いて懇談会を開催し、外務省アジア大洋州局の田中均局長、続いて、韓国、中国、インドネシア、シンガポール、タイ、ベトナム、インド、パキスタン、米国の政治経済情勢について、それぞれの大使より説明をきいた。当日は、山口日商会頭が開会挨拶、今井会長が閉会挨拶を行った。

○ 各大使説明要旨

  1. 韓国(寺田大使)
  2. 日韓関係については、教科書、靖国参拝など困難な問題もあったが、小泉首相と金大中大統領の3回にわたる会談で、難局克服の糸口が見えてきた。今年は日韓国民交流年であり、ワールド・カップも開催される。昨年末に基本合意に至った日韓投資協定もあいまって、更なる関係改善が期待される。
    政治面では、12月の大統領選が大きな焦点である。経済面では、米国経済の回復次第ではあるが、次年度は4%成長という比較的楽観的な見方がなされている。

  3. 中国(阿南大使)
  4. 今年は日中国交正常化30周年である。記念行事もあり、両国関係の更なる発展を期待したい。経済面では、7%の成長目標達成は困難と思われる。WTO加盟による各セクターへの影響は、いろいろと研究されているものの、明確ではない。秋には5年に1度の中国共産党大会が行われ、今後の党の路線と人事が決まる。経済発展により台頭してきた資産階級をどう位置付けるか、ポスト江沢民体制がどうなるかに注目が集まっている。

  5. インドネシア(竹内大使)
  6. 2001年は3.5%の経済成長を達成したが、依然として経済回復への課題は多い。経済面では、国際競争力を高めることが急務であり、日本としても警察、司法改革などの面で協力をしている。メガワティ大統領は、日本との案件になっている4大プロジェクト問題の解決にも優先的に取り組むなど、経済危機時も援助を続けた「本当の友人」日本との関係を重視している。
    中国とは自国市場、第3国市場などで、補完関係ではなく競争関係にあると認識されている。

  7. シンガポール(槙田大使)
  8. 政治的に安定している。問題があるとすればテロの問題だ。最近、イスラム過激派15人が逮捕される事件があった。
    経済も悪くはない。GDP成長率は、一昨年の9.9%という高成長から昨年はマイナス2.7%と落ちこんだものの、底を打つ兆しがあり、今年は0〜2%と予想されている。
    シンガポールは、東南アジアでの中国の一人勝ちを懸念しており、日本の役割に期待している。リー・クァンユー上級相も、日本のリーダーシップが必要と強調している。

  9. タイ(時野谷大使)
  10. タクシン政権は数の上では安定政権であり、長期政権となる可能性もある。しかし、

    1. 経済情勢が芳しくない点、
    2. タクシン首相の政治手法を国王が批判した点、
    3. 寄せ集め集団である与党愛国党は一旦タガが緩むとたちまち崩壊する可能性がある点、
    が不安材料である。経済政策は、外資の活用とともに草の根からの回復を重視するというものだが、外資歓迎は総論であり、各論になると外資への規制強化の動きもあり、引き続き注視する必要がある。

  11. ベトナム(山崎大使)
  12. ベトナム情勢は、「課題はいくつかあるが展望は明るい」と言える。2001年は7.2%の高い経済成長を達成し、国内情勢も安定している。
    中国に対しては、社会主義国から市場経済に移行した先輩国として、学ぶ点が多い。中国との経済関係は補完関係であり、今後一層、対中貿易関係も強化していく方針である。外交面では中国とのバランサーを米国に求めている。

  13. インド(平林大使)
  14. 現在、ハードコアの難しい部分を含んだ「第2世代の改革」に取り組んでおり、政府、経済界をあげて、外国投資誘致のための環境整備などを進めているところである。
    外交面では、世界の主要国入りを目指す一方、ルック・イーストも志向しており、その両面でのサポートを日本に期待している。経済措置も解除され、日印関係は「元に戻った」以上に、「より高い軌道に乗った」と言える。1990年代半ばに続き、第2次インド・ブームが起きるのではないかと見ている。

  15. パキスタン(沼田大使)
  16. 9月11日のテロ事件以降、日パ関係は前進する可能性が出てきた。ムシャラフ大統領は、テロ事件以降、タリバンと決別する一方で、民主化プロセスを進めるほか、各国要人との懇談も重ね、国際社会の一員として認められつつある。
    国内経済は難しい状況が続いている。テロ事件の影響で、貿易が停滞しているほか、税収も落ち込んでいる。しかし、対外経済関係については、IMF主導の緊縮財政を実行するほか、日本やアメリカ等による無償資金協力が決定されるなど、ドナー国との関係は修復されてきている。

  17. 米国(加藤大使)
  18. 今年11月に中間選挙があるが、父であるブッシュ元大統領が再選を果たせなかった主因が経済の低迷であったことを、現大統領は理解しており、一般教書でも、テロとの戦いおよび国土安全保障の確立に加え、国内経済対策を大きな課題の1つとしている。今後、米国がユニラテラリズムを強めていくのかはわからないが、受身の国際協調は何ももたらさないという考えがアメリカ内にあり、日本としては、より洗練されたユニラテラリズムになるよう持っていく必要があろう。今月、ブッシュ大統領が来日するが、率直な対話を図りたい。


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