経団連くりっぷ No.165 (2002年2月28日)

国土・住宅政策委員会(委員長 香西昭夫副会長)/2月6日

政府における防災・危機管理体制の現状などについて内閣府よりきく


災害に強い国づくりを実現するためには、国、地方公共団体、企業、住民が一体となって、予め対策を講じておく必要がある。政府の中央防災会議では、自助、共助、公助のあり方など、防災体制に係る行政、企業、個人等の役割を明確化すべく検討が進められており、とりわけ企業には、災害の被害を最小限に喰い止めるとともに、被災直後の対応から地域経済の復旧・復興の段階に至るまで、さまざまな役割を果たすことが求められている。そこで、内閣府の橋健文 政策統括官を招き、政府における防災・危機管理体制の現状などについて説明をきくとともに意見交換を行った。

  1. 高橋政策統括官説明要旨
    1. 災害を受けやすい日本の国土
    2. わが国はその自然的条件から、災害が発生しやすい国土となっている。近年の自然災害において最大の被害を出した阪神・淡路大震災では、死者・行方不明者が6,435名にも上った。地震災害については、地震分布上、世界の地震の1割は日本周辺で発生しており、まさに地震列島と言っても過言ではない。
      また、木造建造物の多い密集市街地が広い範囲で存在しており、地震によって大規模火災が発生し、建物が倒壊したりするなど、多大な被害が発生してきた。なお、1948年の福井地震までは、数年に1回の頻度で死者・行方不明者が1,000人を超える地震災害が発生していた。それ以降、死者が1,000人を超えた地震災害は1995年阪神・淡路大震災のみであるが、数年に1回の頻度で死者・行方不明者が20人を超える地震災害が発生している。
      阪神・淡路大震災では、被害者の8割強が建物倒壊による圧死であった。全国的にみて、倒壊の危険性が高い老朽住宅密集地域は約25,000haといわれている。木造密集地域が6,000haにも及ぶ東京都などでは、建築物の耐震化が喫緊の課題である。
      また、日本には活火山も多い。過去およそ2000年以内に噴火した火山、あるいは現在噴気活動が活発な火山は、世界で約800あるが、そのうち日本にあるものは1割以上の86に上る。最近の主な火山災害として、2000年に発生した有珠山や三宅島のケースがあるが、三宅島については未だ住民の帰島の目途が立っておらず、引き続き生活支援が必要となっている。
      加えて、経済社会の変化に伴う災害にも留意しなければならない。都市化によって農地の宅地化が急激に進み、都市河川への負担が増加していることは典型的な例である。また、犠牲者の45%が65歳以上の高齢者であった阪神・淡路大震災に見られるように、社会の高齢化が進んだことにより、災害時の弱者対策が重要になっている。

    3. 災害対策の沿革と中央省庁の改革
    4. こうした災害に国はどのような対策を講じてきたか。これまでの歴史において、災害対策に係る法制度等は、常に何らかの災害が契機となって事後的に整備されてきた。
      現在は、中央省庁再編により、内閣府が防災行政の総合調整機能を担っている。内閣官房と内閣府では、24時間体制で災害情報の受信・連絡に当たっており、被害状況等の情報収集・集約を適宜行い、官邸に報告している。同時に、関係機関への情報連絡を行い、関係閣僚会議を通じて基本的対処方針を決定する仕組みとなっている。また、内閣府には首相を会長とする中央防災会議が設置されており、防災基本計画および地震防災計画の作成、実施を行っている。

    5. 東海地震と南関東直下地震
    6. 1944年の東南海地震において、未破壊のまま取り残された空白域があり、東海地震の切迫性が指摘されている。また、東南海・南海地震は約100〜150年間隔で発生しており、今世紀前半の発生が懸念されている。
      一方、南関東地域においても、直下型地震の切迫性が指摘されているが、仮に関東大震災クラスの地震が発生した場合、死者15万人、建物大破約39万棟、建物焼失約260万棟という大被害が予想されている。
      南関東地域直下地震の特徴は、発生メカニズムが複雑で、予知が難しいことである。政府の都市再生本部では、東京湾臨海部における基幹的広域防災拠点を重要プロジェクトとして決定し、東京湾臨海部で防災機能を発揮できるよう、整備を進めることとしている。

    7. 防災において企業に期待される役割
    8. 阪神・淡路大震災において、各企業は、被災した従業員や、施設・店舗等への対応に努める一方、地域社会に対し積極的な貢献を行った。企業活動が拡大・複雑化した結果、社会に与える影響が大きくなり、地域社会に対する貢献がこれまで以上に期待されている。
      しかしながら、こうした期待に対して、企業の防災意識は必ずしも高くない。上場企業約3,000社に対して昨年実施した企業防災関連アンケート調査においては、アンケート回収率が6.3%にとどまった。また、回答した企業についても、企業防災計画やマニュアルの内容を理解している経営者は60%、管理者は79%、一般社員は44%に過ぎず、理解および浸透度の低さを物語っている。さらに、約8割の企業が「本社は使用可能」という前提で企業防災計画・マニュアルを策定しており、本社機能が崩壊した場合の危機対応力が懸念される。
      今後、防災に関して企業に期待される役割として、

      1. 自らを災害から守る機能の強化、
      2. 災害時における地域社会への貢献、
      3. 企業活動を通じた災害に強い社会への貢献、
      が挙げられる。これらを踏まえ、企業が防災に対する計画を作成しようとする際に必要な「ガイドライン」の作成に向け、官民共同で検討していきたい。

  2. 意見交換(要旨)
  3. 経団連側:
    建物の倒壊を防ぐ上からは、木造密集地の再開発が不可欠ではないか。
    高橋統括官:
    市街地の面的整備とともに、建築物の耐震性強化が重要である。

    経団連側:
    米同時多発テロのような事態に陥った際には、内閣府が対応するのか。
    高橋統括官:
    テロ対策は危機管理の一環として対処すべきであるが、復旧や被災者支援など防災対策として対処すべき事項もありうるのではないか。

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