経団連くりっぷ No.165 (2002年2月28日)

WTO交渉連絡協議会(司会 槙原 稔 副会長/貿易投資委員長)/2月6日

WTO新ラウンド交渉が開始

−官民の連携がきわめて重要


WTO交渉連絡協議会は、WTO新ラウンド交渉に関する経団連と政府による常設の意見交換の場として1999年9月に設置された。2001年11月にドーハで開催された第4回WTO閣僚会議において、本年初よりの新ラウンド交渉の開始が決定され、これを受けて、去る1月28日から2月1日にかけて、WTOにおいて、第1回貿易交渉委員会(TNC)が開催された。そこで、同連絡協議会を開催し、外務省の小田部陽一 経済局審議官、経済産業省の佐野忠克 通商政策局長、財務省の田村義雄 関税局長、農林水産省の西藤久三 総合食料局長より、TNCの模様を含め、今後の新ラウンド交渉の展望等について話をきくとともに懇談した。

  1. 外務省・小田部審議官説明要旨
  2. TNCでは、議長の選任を中心として、主に手続的な議論を行ったが、発展途上国と先進国の対立により難航した。最終的に、議長は職責としてのWTO事務局長となった。本年8月までは現在のムーア氏、9月以降はスパチャイ元タイ副首相が引き継ぐ。
    交渉組織としては、以下の7つとなった。すでに交渉が開始している農業とサービス貿易については、それぞれの委員会の特別会合で行う。非農産品市場アクセス、ルールに関しては交渉グループを新設する。TRIPS(知的所有権の貿易関連側面)協定の下でのワイン、スピリッツの地理的表示の多国間通報・登録制度の創設、紛争解決了解の改善と明確化、貿易と環境についてはそれぞれの理事会、機関、委員会の特別会合を新設して交渉を行う。それぞれの交渉グループの議長は決まらなかったので、今後、協議・決定されることとなる。
    投資、競争政策、貿易円滑化、政府調達の透明性については、来年に開催されるメキシコでの第五回閣僚会議において、交渉を開始するかどうか決めることになる。
    また、交渉全体に関する指導原則が定められた。具体的には、TNCや各交渉機関の会合記録の迅速な配布、各交渉会合のできる限り一時期一つのみの開催等である。
    GATTウルグアイラウンド交渉の時に比べて、WTOにおける途上国の発言力が強まっており、今後、先進国は、キャパシティ・ビルディング等を通じて途上国を支援していく必要があるだろう。

  3. 経済産業省・佐野局長説明要旨
  4. ドーハ閣僚会議に、平沼経済産業大臣を首席代表とする代表団に参加した。WTO加盟国がグローバル化を進めていく政治的決意を示し、新ラウンド交渉立ち上げに至ったことは、高く評価すべきである。
    WTO新ラウンド交渉は、他国のリージョナル・バイの取組みが進展する前に、着実にマルチでの自由化が進められれば、メリットは大きい。また、国際事業環境整備のため、

    1. グローバルな企業活動の予見性を確保するための投資ルールの策定、
    2. 今後、問題が顕在化すると思われる貿易と環境の関係、
    3. ボーダーレスな企業活動を律する競争政策のあり方、
    4. アンチダンピングを中心とする既存のルールの見直し、
    を中心とした問題に積極的に取り組んでいきたい。「WTO協定の義務履行」も重要であり、途上国に対しては、TRIPS協定を含む協定の遵守を求めるとともに、途上国の協定履行能力の向上を支援していく(キャパシティ・ビルディング)。
    また、対外経済政策全般に関しては、WTOと並んで、地域協力、二国間協力といった多層的なアプローチにより、更なる自由化を推進したい。経済のグローバリゼーションが進展する中、企業が国を選択する時代となっており、国内経済政策と表裏一体となって、企業が競争力を増すことができるような事業環境を整備していきたい。

  5. 財務省・田村局長説明要旨
  6. 財務省は、WTO交渉に関して、関税政策と税関制度を所掌する立場から、貿易自由化の推進、貿易ルールの明確化は重要と考えている。また、主要な貿易手続である税関手続を扱う立場から、特に貿易円滑化に関わりを有している。
    今までのGATTラウンド交渉を通じて関税率はかなり削減されてきており、貿易関連手続の軽減・撤廃(貿易円滑化)による更なる貿易の促進が、WTOにとって重要な課題となっている。
    貿易円滑化は、来年の閣僚会議で交渉を行うか決定することとされ、今後、交渉準備作業が行われる。わが国は、米国やEUを含む貿易円滑化についての交渉開始を支持する諸国の集まりであるコロラド・グループの一員として、こうした諸国と連携を取りながら議論していきたい。
    また、貿易円滑化に関しては、WTOだけでなく、さまざまな国際的フォーラムで活動を行っており、特にWCO(世界税関機構)は、税関手続の国際標準を定めた改正京都規約を採択するなど、貿易円滑化の分野で大きな貢献を行っており、WTOにおいてもWCOとの協力を更に図っていくことが重要と考えている。

  7. 農林水産省・西藤局長説明要旨
  8. 農業交渉は2000年始めからビルトインアジェンダとして農業委員会特別会合で開始されており、ドーハ閣僚宣言でラウンドの一環に位置づけられた。農業交渉の第1段階では各国が交渉提案を提出している。わが国は一昨年の12月に提案をとりまとめ提出したがその際には経団連とも相談させていただいた。わが国の農業交渉に対するポジションは、農業協定第20条に「改革過程の継続」がうたわれており、これに基づいた交渉を行うこと。わが国農政も、1999年の7月に食料・農業・農村基本法を制定し、農政改革を進めているところ。とかくわが国の農業は保護主義という意見を拝見するが、自由化一辺倒がよいのかというと、URの実施の経験から見ても必ずしもそうではない。UR農業合意の結果、農産物貿易から恩恵を享受しているのは一部の国だけであるし、先進国と途上国の食料供給格差も広がっており、国際的な食料需給の不安定性は依然として解消されていない。また、1996年から1998年は世界的な穀物需給が過剰であり、小麦、トウモロコシなども価格が約半分にまで下がっている。米国はそれを受けて追加的な農業保護施策をとらざるを得なくなっている。他の国もそれぞれ悩みを抱えている。われわれも世界の情勢を見つつ、URの実施の経験をしっかり踏まえて交渉に臨んでいきたい。


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