経団連くりっぷ No.166 (2002年3月14日)

統計制度委員会企画部会(部会長 飯島英胤氏)/3月5日

四半期別GDP速報の改善に向けた課題

−麗澤大学国際経済学部 中村教授よりきく


統計制度委員会企画部会では、麗澤大学国際経済学部の中村洋一教授(日本経済研究センター研究委員)を招き、四半期別GDP速報の問題点や、改善に向けた課題について説明をきいた。

○ 中村教授説明要旨

  1. 四半期別GDP速報(QE)は国民経済計算(SNA)体系のごく一部であり、本来、SNAは短期的な景気動向の把握を主目的としていない。しかし、QEの社会的影響は大きく、改善すべき点は改善する必要がある。
    QEに対しては、

    1. 公表時期が遅い、
    2. 動きがぎくしゃくしており、改訂幅も大きい、
    3. 季節調整が不十分である、
    4. 他の経済統計(鉱工業生産指数など)の動きと合わない、
    などの批判がある。このうち季節調整の問題については、93SNAへの移行時に新たな季節調整方法(X-12ARIMA)が採用されるなど、改善に向けた努力も行われている。しかし、最大の問題は、QE段階の推計方法と、確報における推計方法が全く異なることである。確報をコモディティ・フロー法により生産側から推計するのに対して、QE段階では消費、設備投資など支出側からのサンプル調査をもとに推計しているため、QE段階から確報にかけての改訂幅が大きくなるのは当然である。

  2. 日本以外の多くの国では、QEを確報同様に生産・支出・分配の三面から推計している。分配面では、雇用者報酬だけでなく他の所得も推計しており、貯蓄率などのチェックが可能となっている。また、QEの推計に用いる基礎統計は、小売業売上高など供給側統計が大半であり、家計支出額調査(総務省「家計調査」に相当)など支出側統計の信頼性は低い。
    これに対して日本のQEは支出面だけを捉えており、基礎統計も支出側が中心である。最近は、家計支出額調査の安定性を高めるために、家計調査(調査対象は約8,000世帯)に加えて、総務省「家計消費状況調査」(調査対象は約30,000世帯)が開始されるなどの努力も行われているが、サンプル調査ゆえの限界はある。今後は、QEにおける民間最終消費支出の推計にあたって、家計調査など支出側統計と、消費財出荷など生産側統計やPOSデータを併用する方向で検討すべきだ。統計に誤差はつきものだが、支出、生産の両面から推計して、その中間をとれば、結果のばらつき(分散)は半減する。

  3. 設備投資についても、主な基礎統計である財務省「法人企業統計季報」は、当該四半期終了から公表までに2ヵ月強を要し、精度面でもサンプル調査(調査対象は約19,000社)の限界がある。一方、生産側統計の整備も十分ではないため、QEにおける民間企業設備投資の推計にあたっては、法人企業統計季報と生産側統計を併用する方向で検討すべきだろう。法人企業統計季報についても、集計の電子化を図り、公表を早期化するなどの改善が求められる。


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