金融制度委員会資本市場部会(部会長 福間 年勝氏)/2月19日
資本市場部会では、証券取引等監視委員会を中心とする市場監視体制のあり方について経団連としての考え方をとりまとめるべく検討している。同部会では2月19日、日本証券経済研究所の佐賀卓雄主任研究員を招き、米国の証券市場監視体制との比較の観点から見た、わが国市場監視体制の課題について説明をきいた。
「証券市場活性化」という言葉のイメージは人によってさまざまだが、税制によるインセンティブや公的機関の買取りの前提に監視体制の整備があるべきである。
1997年の金融システム改革以来、証券取引業者への監視は事前予防(免許制)から事後監視(登録制)へと変わり、規模の小さなものも含め業者の数は増えていく。しかし日本版ビックバンは金のかからない景気対策との位置付けで始まったため、金のかかる市場インフラの整備は後回しとなった。山一證券の破綻などで投資者保護基金の整備が進み、ようやく決済システムの整備に取りかかったという現状である。
こうした中、証券取引等監視委員会は昨年の年次報告で、証券市場の現状を分析し、自ら
米国では大統領直属の機関として3,200人のスタッフを擁するSECが強力な権限を持っている。また1934年証券取引所法第11A条に「証券市場は守られるべき重要な国家財産である」と位置付けており、SECはそれを背景にFBI並みの権限を与えられている。ただしSECは、実は摘発以上に投資家の啓蒙、教育に力を入れている。米国は多民族社会であることを背景に、投資家の知識のレベルもさまざまであり、情報開示の徹底されていないマイクロキャップ株式(比較的小さな会社の、株価が低く、売買もあまり行われていない株式)やオンライン取引をめぐって詐欺などが横行しているからである。
加えて証券取引に絡む組織犯罪も頻発しており、これらを排除するためには強力な権限が必要なのである。摘発の3分の1は投資家からの情報提供によるものである。米国50州の証券局はカナダ、メキシコの証券局と結んでクロスボーダーの監督をしている。最近ではインターネット利用の不正行為の摘発に力を入れており、1998年に設置したインターネット特捜局(約200人で構成)はすでに200件を超える摘発をしている。
また、SECでは3分の1のスタッフが執行業務を行い、残りの3分の2は企画畑で規則制定権限に基づくルールづくりを行っている。ルールはコンセプトリリースで規則制定趣旨を説明し、コメントを勧誘、規則を提案し、パブリック・コメントを経て1、2年で規則制定をしている。
日本の証券取引等監視委員会は、国家行政組織法8条に位置付けられた機関であり、SECが民事制裁金の賦課や違反行為の差止・行政処分等の広範囲な権限を直接有するのに比べると、調査・勧告・告発しかできない委員会は見劣りがする。要員は1.5倍に増えたが財務局とあわせても364人しかいない。米国ではデリバティブ取引監視についてSECと別にCFTC(商品先物取引委員会、CommodityFuturesTrading Commission)がありここだけで700人の要員がいる(SECとあわせて約4,000人の体制)。日本でも中途採用はしているが、専門性のある人材は不足しており、米国同様、キャリアの複線化が必要である。
投資家からの情報提供は増加しているようだが、インターネット上の不正行為の摘発実績はまだない。
現行の証券取引等監視委員会について外資系証券への調査が甘い、金融取引への理解が不十分で検査のポイントが外れている、との指摘がある。そこで、民事制裁金を課したり、規則制定権を付与したりしてはどうか。金融庁の業務がなくなるため、金融庁と委員会とを分離するのか、一体化したまま強化をするのかが課題となる。
刑罰を強化し「摘発即倒産」という米国のような緊張感が生まれれば、コンプライアンス体制の充実が進む。
スタッフの専門性が欠如しており、高度・複雑な金融テクニックに対応できていない。少ない人員で昨年もEB(他社株券特約付社債券)に関する不正の摘発など成果を挙げているが、新たな金融商品は多く出てくる。スタッフの専門性・人員の強化は急務である。