経団連くりっぷ No.166 (2002年3月14日)

経団連ゲストハウス 社会貢献フォーラム/2月15〜16日

ブランドと社会的責任の視点から社会貢献活動を再考する


11回目を迎える社会貢献フォーラムは、「リアクティブからプロアクティブへ〜今だからこそ、打って出る社会貢献活動を!」をテーマに、近年、企業経営において重要視されている「コーポレート・ブランド」の形成、社会的責任ある企業行動の観点から、社会貢献活動が果たす役割について討議した。企業の社会貢献担当者や広報担当者を中心に50名余が参加した。以下は同フォーラムにおける基調講演の概要である。

  1. 社会的責任投資の潮流
    − 足達英一郎 日本総合研究所創発戦略センター主任研究員
    1. 欧米では従来の収益性だけでなく、社会・倫理面や環境面を考慮した社会的責任投資(Social Responsible Investment : SRI) が伸びている。

    2. 米国では、SRIはスクリーニング型、株主行動、コミュニティ投資に分けられるが、2000年のスクリーニング型SRIは2兆300億ドルとなり、専門的投資運用規模の約12%を占めた。

    3. 欧州では英国が牽引してSRI型投信は2001年6月末で251ファンドあり、2000年1月より58%増加した。英国の年金基金の約8割がSRIを考慮している。

    4. 欧州におけるSRIの成長は、

      1. 良好な運用実績、
      2. SRI型株価指数の誕生(DJSGI、FTSE4GOOD)、
      3. 企業の社会的責任を競争力の源泉とする見方の定着、
      4. 年金制度の制度改正・機関投資家の方針決定、
      5. 企業側の積極的な情報開示、
      などの要因による。

    5. 欧米投資機関での日本企業の情報へのニーズが増大する一方、日本企業からのアンケート回答率は極端に低い。調査項目の問題等があるが情報発信し、フィードバック・対話で対応する必要がある。

  2. 広報という観点からのレピュテーション
    − 川村秀樹 ヒルアンドノウルトンジャパン アドバイザー
    1. 近年、欧米で広報の観点から重要とされるキーワードはレピュテーションとブランドである。ブランドは製品やサービスの利用など経験に基づくものであり、購入動機に直接影響する。一方、レピュテーションは、漠然とした認知であり、評判や噂に影響され、購入と直接的な関係はない。

    2. 株主などステークホルダーの企業を見る尺度は、人によって異なり錯綜している。さらに、一個人の中にも、株主、従業員、コミュニティの一員など複数の役割が存在している。

    3. 英国のアナリストの一人は「株価を決定する要因で、財務内容は6割、レピュテーションは4割」と言っていた。レピュテーションは

      1. 時間がかかる、
      2. ステークホルダーによって全く異なる見解を持つ、
      3. その形成にマスコミ等のリーダーが存在する、
      という特徴を持つ。

    4. 20世紀の生産者主導から21世紀の消費者主導への変化の中で、コミュニケーションも提供から選択へ、権威者から権威者の空白化等へと変化しており、各ステークホルダーにあったコミュニケーション手法としてインターネットの活用が鍵となる。

    5. アメリカの企業には、物語性を重視した社会貢献活動を展開するところもある。日本企業も、レピュテーションの観点からも意味ある社会貢献活動をアピールしていく方がよい。

  3. 市民社会構築のための企業とNPOの協働
    − 田尻佳史 日本NPOセンター事務局長
    1. NPO法施行後2年が経過し、2月現在で6,001のNPOが認証されている。行政によるNPO支援は拡大しており、2002年度のNPO・ボランティア関連の政府予算案は約500億円となっている。

    2. 政府支援の拡大のきっかけは1999年秋の地域緊急雇用対策であり、2年間で約20億円がNPOに直接流れた。そのため、受託事業に依存したNPOや受託事業を実施するために行政誘導でNPOが設立されるなどの問題が出ている。また、行政からの資金は公平の原則、完成品の委託者への帰属などの観点から、自由な発想での活動につながりづらい。

    3. テーマが選択でき、双方の強みを活かした民民の協働を探る時期である。しかし現実には企業依存であり、協働を進めるにはルールづくりが必要と考える。

    4. 協働にあたり8項目のルールを提案したい。

      1. 自己の確立、
      2. 相互理解、
      3. 自己改革、
      4. 目標の明確化、
      5. 対等な関係、
      6. 相互の透明性、
      7. 関係の時限性、
      8. 相互の評価、
      の8つである。

    5. 今後は多くの協働モデル事例を作り、社会への定着化を進めたい。そのためにはテーマ設定が重要である。テーマの絞り込みと選択ができることが民間の良さである。

  4. 企業はなぜNPOに行きついたか
    − 加藤種男 社会貢献担当者懇談会座長
    1. 企業の社会貢献は、市民社会の実現に寄与することがミッションであり、社会貢献活動により会社を変え、社会も変えていこうとしてきたが、企業だけでは達成できない。

    2. 市民社会構築のためには、ステークホルダーとしての漠然とした市民を対象とするのでなく、当面は社会的課題解決の有力なパートナーとしてNPOが考えられる。

    3. NPOの特色は、

      1. きめ細かいソフトの先駆性、
      2. 固有名詞で仕事をするフラットな多方向ネットワーク型組織、
      にある。

    4. 企業の社会貢献活動が市民社会実現の力となるには、一緒に仕事をしたパートナーであるNPOからの評価が暫定的には有効と考える。

    5. 各社がミッションに基づき、何を行うか、実現のためにどうするかの基準を作り、それによりパートナーとしてのNPOを選んでいくことが大切である。


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