経団連くりっぷ No.166 (2002年3月14日)
アメリカ委員会企画部会(部会長 本田敬吉氏)/2月22日
ITの普及により新たな経営戦略の構築が求められる
アメリカ委員会企画部会では、千葉商科大学政策情報学部の石山嘉英教授より、米国企業の事例を参考に、ITが企業経営に与える影響について話をきくとともに、懇談した。
○ 石山教授説明要旨
- 経営戦略とは何か
経営戦略には、
- 製品の差別化によって有利な事業環境を得るための位置を確保すること(ポジショニング)、および、
- いかなる事業環境の中でも競争相手に勝てるような組織能力(知識体系、資産等)を構築すること、
の二つの考え方がある。しかし、企業が高い収益を上げるためには、両者のコンフィギュレーションが必要であり、かつ、それらを時間軸の上で考えることが不可欠である。
- ITによる事業環境の変化
IT普及に伴う事業環境の変化として、以下の点があげられる。
- パソコン、ルーター、顧客への直販、買い物代行サービスをはじめとするICT(Information and Communication Technology)を活用した新製品・サービスの誕生、
- 既存品のリーズナブルなカスタマイゼーションやBTO(Built to Order)範囲の拡大、
- 取引コストの下落による顧客数の大幅な増加、
- スマイルカーブ現象(部品製造とメンテナンス等のサービス部分の利益が向上し、途中のアセンブリー部分の利益が低下する現象)の現れ、
- ビジネスの水平統合化の進展、
- バリューチェーンの崩壊(部品・原材料の調達から製造、販売、サービスまでのどこかに集中)。
上記 5. 6. に伴い、垂直統合型企業の競争力は低下している。すなわち、事業環境の変化が激化する中、社内の意思決定が迅速にできるという垂直統合型企業のメリットは薄れつつあり、逆に、部門間での責任の所在が不明確というデメリットが顕著になっている。
- 新しい事業環境の中での経営戦略
こうした新たな事業環境の中で企業は、利益の多層化、特定分野への特化、販売チャネルの多様化、顧客の囲い込みを行っている。すなわち、業務の効率化を前提に、企業は、規模の利益の実現、範囲の経済の実現、特化、新事業および全く新しいビジネスモデルの創造、のいずれかのポジショニングをとっている。ただし、これらは相互背反ではないため、いくつかを同時に実現している企業も見られる。
さらに、企業が組織能力向上に努めた結果、以下のような現象が見られた。
- 1980年代に過剰能力を抱えた伝統的大企業の多くは、最適規模を目指して、1990年代初頭にダウンサイジングを行った、
- 範囲の経済実現のために、1990年代後半には大型合併が相次いだ、
- 伝統的大企業から事業部門が資本関係を絶ち、スピンオフするケースが増加した、
- 新事業や新産業の創出が相次ぐ中で、ベンチャー企業から新興大企業に成長する企業が出現した。
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