金融制度委員会(委員長 片田哲也副会長)/3月11日
金融制度委員会では、証券市場の活性化に向けて、市場ルールの明確化や市場監視体制の確立に向けて、資本市場部会(福間年勝部会長)で検討を重ねてきた。3月11日、同委員会では資本市場部会での検討結果について報告をきき、委員会としての審議を行った。これに先立ち、21世紀政策研究所の田中直毅理事長より「証券市場に期待する役割」につき、説明をきくとともに意見交換を行った。
デフレ加速論がいわれているが、日々素早く変化するノミナル(名目的)なマネーの世界と実体経済は注意深く見分ける必要がある。世界中で物価下落は発生している。サービス価格やDRAM等に相対価格の急速な変化はあるものの、わが国卸売物価指数対象1,300品目の約半分は前年に比し殆ど上下していない。百年間に一度のような異常な変化が生じている可能性は少ない。為替、株式等多様な金融市場が現実を映し出し、価格調整をしており、この金融市場という鏡を磨く技術があれば、名目的変化の影響を相当程度、回避可能である。「インフラとしての資本市場」との認識が重要である。
今次デフレ対策は新規性なしとして内外ともにあまりニュースにならなかったが、今回は“No news is good news(新しきことなしは良き知らせ)”といえる。693兆円に及ぶ長期債務残高は、仮にユーロ加盟を目指しても10年はあきらめねばならない水準であり、そのようなわが国がデフレ加速論に乗り非常事態と称して財政拡大策を講じていたら世界を駆け巡る大ニュースとなり、トリプル安になったろう。しかしペイオフは予定通り解禁され、退場すべき金融機関は解禁前に退出しつつある。改革の推進により日本の資源配分は基本的な部分で変化してきている。昨年21世紀政策研究所ではPE(政策評価)モデルにより、本年下期の景気回復を逸早く予測した。市場を見る限り、自己責任で資金を市場に投じている人々も日本経済を評価している。政策面での空白期である4〜6月に、改革の本格的かつ具体的プログラムが政府から提示されれば、日本経済の立ち上がりは確かなものとなろう。
一国ごとの国民経済論では、国境を越えて伝播する変化の速さに追いつけない。日本経済は米国を中心とする世界経済と同一のプレート上にあるとのプレートテクトニクス理論では、韓国と台湾のエレクトロニクス企業の株価急騰がアメリカの景気回復に連動したこと等が読み取れる。
プレート全体の変化を敏感に受け止めるにはきちんと価格調整メカニズムが働く仕組みが必要である。市場で最適価格が模索されている過程では一時的に不安定な状況に陥ることがあるが、我慢して市場を育てる勇気が要る。間接金融のみでは既にゼロ金利であるのに景気調整ができていない。直接リスクをとるアニマル・スピリットを欠いた状態は資本市場の死を意味する。構造改革を遅らせ特殊法人依存のままでは将来秩序が見えず、不安感は払拭できない。
米国ではSECが活発に活動し、金融市場という鏡を磨いている。州レベルのブルー・スカイ・ローから証券規制がスタートして以来、最近のエンロンの事件後の動きに至るまでディスクロージャー規制は日に日に更新されている。
日本ではこれまでそうした試行錯誤の経験が乏しかった。MMFが少し元本割れすると解約が相次ぐようでは市場仲介者に対する信頼がなく、鏡を磨くことの難しさを感じる。しかし医療制度改革に着手した小泉内閣が、当研究所が1998年に提言したような方向(基礎年金部分は税、報酬比例部分は廃止し個人別積立勘定とする等)で年金改革を進められれば、事態は大きく変わる。ちなみに、改革を実現したチリではATMに個人年金カードを入れれば個人年金残高がわかる。そのためには世代間扶助の考えを根本から転換せねばならないが、百数十兆円とも試算される年金積立金が個人別となれば、相当部分がキャピタルマーケットに回り、市場を活性化し得る。一部で導入開始された日本版401kでも、薄皮をはぐような形だが個人資金が株式を選好している。
その際、不正や不公平な扱いが横行しないよう、投資家の目線で整序された市場にする必要がある。資本市場を支える日本版SEC創設という経団連の取組みは、時宜にかなったものである。