経団連くりっぷ No.167 (2002年3月28日)

WTOサービス自由化交渉に関する懇談会(司会 貿易投資委員会総合政策部会長 團野廣一氏)/3月1日

人の移動に関する国際的議論の動向

−WTO「人の移動」に関する検討会第1回会合を開催


WTOサービス貿易自由化交渉において交渉項目の一つとなっている「人の移動」について、外務省経済局の下川真樹太国際機関第一課サービス貿易室長、佐々山拓也開発途上地域課首席、経済産業省商務情報政策局の井上哲郎サービス政策課係長より説明をきくとともに懇談した。

  1. WTOにおける議論について
    −下川サービス貿易室長
  2. GATS(サービス貿易一般協定)の「人の移動附属書」では、GATSの対象となる措置等について定めている。「自然人の一時的な滞在を規制するための措置」を加盟国が適用することは妨げられない旨規定があるが、経済的理由による規制が認められるか否かは解釈の幅がある。日米欧は、サービス販売のための交渉を目的とした滞在、企業内転勤、自由職業の3つのカテゴリーに分けて約束を行っている。今次交渉では、この3つのカテゴリー以外に「契約に基づくサービス提供者の移動」を含めるかどうかが焦点となる。途上国は、単純労働者の受け入れも求めている。また、上級管理職・高度専門職等の職種に関する共通の分類・定義の作成、需給調整テストの明確化による各分野の市場アクセス改善、入国許可・労働許可の基準明確化、商用目的での短期滞在のためのGATSビザの導入等の提案がある。

  3. APECビジネス・トラベル・カードについて
    −佐々山開発途上地域課首席
  4. APECビジネス・トラベル・カード(以下、ABTC)は、1996年および1997年のABAC提言で提案された、ビジネス関係者の移動促進を目的としたシステムである。ABTC保持者は、ABTC制度を受け入れている国に入国・滞在する際に旅券およびABTCのみで最短で2ヵ月以内、最長3ヵ月以内入国・滞在できる。現在、豪州、フィリピン、韓国、チリ、香港、マレーシア、タイ、ペルー、ブルネイ、中国、台湾が導入済み、もしくは参加表明を行っている。わが国も導入に向けて準備を進めている。

  5. 日本・星新時代経済連携協定について
    −井上サービス政策課係長
  6. 日・星新時代連携協定では、人の移動について

    1. 商用目的の人々の移動の容易化、
    2. 職業上の技能の相互承認、
    でいくつかの合意を行った。前者については、日本は短期商用訪問者、企業内転勤者に加え、投資家、契約ベースに基づく入国を新たに自由化した。シンガポールは、企業内転勤者に加え、短期商用訪問者、投資家、契約ベースに基づく入国を新たに自由化した。後者については、IT技術者、医者、技術士(土木工業分野)について資格の調和を行うこととなった。
    同交渉の取りまとめを通じて感じたWTO交渉に向けた課題は、
    1. 入国手続に関する障害事例、自由職業サービスのユーザー側のニーズの把握、
    2. 人の移動に関するわが国制度の見直し、
    3. 途上国の関心事項への対応のあり方、
    である。


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