経団連くりっぷ No.168 (2002年4月11日)

資源・エネルギー対策委員会企画部会(部会長 石井 保氏)/2月26日

今後のエネルギー・環境政策

−筑波大学 内山教授よりきく


資源・エネルギー対策委員会ではこのたび、わが国のエネルギー政策に関する重要問題を専門的な見地から議論するため、企画部会を設置した。第1回会合では、筑波大学の内山洋司教授を招き、今後のエネルギー・環境政策について説明をきいた。

  1. 内山教授説明要旨
    1. エネルギーを巡る情勢
    2. エネルギーの需要側を見ると、近年では最終エネルギー消費の伸びがGDPの伸びを下回る中、電力需要の伸びはGDPの伸びを上回っている。この主要な原因は民生部門における電力需要の増加である。京都議定書を受け、政府の総合資源エネルギー調査会は昨年、2010年度の省エネ目標として5,700万kl(原油換算、1990年の最終エネルギー消費の16%)を示した。
      供給側では、電力の部分自由化、小規模分散型エネルギー技術への関心の高まりといった変化がある。政府は、2010年度に1,910万klの新エネ導入目標を示している。

    3. 省エネルギー
    4. 省エネの要件には次の3つがある。

      1. 省エネ型インフラの整備、
      2. 省エネ型ライフスタイルの啓蒙活動、
      3. 省エネ型システム・技術の開発・普及。
      政府の省エネ目標はかなりの努力と費用を要する。ただしこの目標は年率2%の経済成長を前提としており、現実の成長率がこれを下回れば、より低い目標で足りる。

    5. 再生可能エネルギー
    6. 再生可能エネルギーは、有事の際の供給途絶がない、事故への不安が少ない等の利点があるが、高コスト、出力不安定等の欠点がある。また環境面でも、太陽光は製造時のフロン、風力は騒音や高周波、廃棄物発電はダイオキシンの問題がある。
      発電所敷地面積あたりの発電電力量は、原子力が1万数千kWh/m2年であるのに対し、太陽光、風力では20kWh/m2年でしかなく、家庭や事務所の電力需要(30〜数百kWh/m2年)にも達しない。また再生可能エネルギーは、導入が進めば発電設備の製造コストは下がるが、立地の条件を満たす場所には限りがあるので、導入が一定量を超えると設置コストが上昇する。
      太陽光482万kW、風力300万kW、廃棄物発電417万kWという導入目標(それぞれ1999年度の一次エネルギー総供給の0.2%、0.2%、0.9%)の達成には公的な支援が不可欠だが、従来型の補助金から、グリーン電力基金やRPS制度(Renewables Portfolio Standard、証書を用いた再生可能エネルギーの導入基準制度)等、自主性を尊重した助成策へ移行することが望ましい。

    7. 天然ガス
    8. 米国エネルギー情報局(EIA)の予測によれば、世界のエネルギー供給に占める天然ガスの比率は、1996年の22%から2020年には27%に上昇する。多くは石炭からの燃料転換であるが、新利用形態としてマイクロガスタービンと燃料電池が注目されている。前者は排ガスと吸入空気とを熱交換する再生サイクルによって、後者は直接発電によって、小規模電源でありながら高い発電効率を実現している。
      天然ガスの利用拡大にあたってのわが国の課題は供給基盤の整備である。当面は既存の都市ガス導管とLPG供給設備が利用されるが、中期的には国内基幹パイプラインの敷設、長期的には自動車用水素供給設備の整備を検討する必要があるだろう。

    9. 中・長期のエネルギー政策
    10. エネルギー政策はかつて安定供給が中心的課題であったが、今後は安定供給(Energy Security)、環境保全(Environment Protection)、経済合理性の確保(Economic Growth)の3Eの同時達成が必要とされる。したがってエネルギー産業は、規模の経済だけでなくシナジー効果にも重きをおく「エネルギー総合産業」への発展を指向すべきだろう。期待されるニッチ市場は、集中型電源と分散型電源との協調、トップランナー機器の開発、住宅・都市・交通インフラの再整備等である。
      政府の取組みとしては、省庁協力による3Eのバランスの取れた総合エネルギー政策の推進が望まれる。現在の自由化の趨勢のもとでは、原子力等の大型技術を着実に推進するとともに、分散型技術による新産業創出、蓄電・蓄熱技術や情報技術を活用したデマンドサイドマネジメント等への取組みが必要である。ほかには天然ガス供給インフラの整備、国民参加型のエネルギー政策の推進等が求められている。
      電力の供給責任については、現状では電気事業者に課されているが、供給責任を取引する仕組みがあっても良いと考えている。これにより分散型電源や蓄電・蓄熱のような新しい産業の発展が促されるだろう。

  2. 意見交換(要旨)
  3. 経団連側:
    わが国ではこれまでも省エネの取組みはあったが、これはどのような結果になっているのか。
    内山教授:
    産業部門のエネルギー消費量を決める要因は生産量、原単位、製品構造である。わが国では原単位の改善の効果が大きく、石油危機前の半分程度にまで向上している。このため今後の改善は難しくなっている。製品構造については、経済のサービス化の影響もありわずかに省エネ型になってきているが、これによって大きな効果を得ることは難しい。民生・運輸部門には省エネの余地があり、政府の省エネ目標ではこちらに重点が置かれている。

    経団連側:
    京都議定書の目標達成は大変困難である。これが景気回復の足かせになることを懸念している。
    内山教授:
    京都議定書の目標達成のためには京都メカニズムの活用が必要になるだろう。CDMはホスト国(途上国)との関係促進という側面を期待できるかもしれないが、ホスト国が安易にクレジットを与えるとは考えにくい。ホスト国はCDMのベースラインを高く設定しようとするだろう。企業間で安価で排出権取引を先行して行っておいて、先例をつくっておくことが、CDMの円滑な活用につながると考える。

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