経団連くりっぷ No.168 (2002年4月11日)

社会保障制度委員会年金改革部会(部会長 岡本康男氏)/3月12日

公的年金制度改革について

−一橋大学経済研究所 高山教授よりきく


社会保障制度委員会年金改革部会では、一橋大学経済研究所の高山憲之教授を招き、公的年金制度改革の課題や視点などについて説明をきいた。

○ 高山教授説明要旨

  1. 公的年金制度を支える現役世代は、制度に対する不信・不安感を強めている。持続可能な制度を維持するためには、抜本的な改革が必要であり、現役世代の理解と納得を得ることが何よりも求められる。

  2. 公的年金保険料は、租税、社会保険料負担の中で突出して高くなっており、更なる引き上げには疑問がある。今後は、恒常的に労働者が減少することに加え、賃金の持続的な上昇も期待できない。現役世代に負担を求めても国民の納得は得られない。

  3. 基礎年金の国庫負担割合を2分の1へ引き上げることも容易でない。給付の一定割合を一律に国が負担する必要はない。税方式を導入している諸外国の例を見ても、税で賄う部分については、年金受給者の所得に応じて給付額の調整を行っている。

  4. そこで、税で賄われている基礎年金給付の3分の1については、定額を基本としつつ、高所得者には薄く、低所得者には厚い給付体系に改めるべきである。財源としては、「年金目的消費税」を導入し、年金財源の安定化や世代間の負担格差の公平性を図る必要がある。
    税方式への移行に伴い、若者の年金離れ、第3号被保険者問題、厚生年金に比べて割高な国民年金保険料の徴収コスト等といった諸問題は解決する。

  5. 税方式の導入にあたっては、年金受給者を含めて、全国民が制度を支えるという合意を得ることが必要になる。年齢階層別の平均所得を見ると、過剰な再配分政策の結果、年金受給世代の再配分後の所得は、20代から40代の所得に比べて高くなっている。年金受給者も現役世代がリストラや賃金カットに苦しんでいることは理解しており、応分の負担を受け入れる余地はある。

  6. 基礎年金給付の3分の2については、報酬比例部分へ移行させ、保険料の刻みを増やして所得比例方式へ切り替えるべきである。さらに報酬比例部分は、負担と給付の関係が一目瞭然の「みなし掛金建て方式」に切り替えることを検討すべきである。
    みなし掛金建て方式は、保険料の拠出分とみなし運用利回りを毎年、個人別に記録し、各個人に報告する仕組みであり、現行の賦課方式を維持したままでも制度の切り替えが可能な上、積立方式への移行に伴う二重の負担問題も回避できる。

  7. 将来の経済・社会の環境変化を見通すことは難しい。給付と負担について、不断の見直しを行い、その時々に応じて、国民の多数派が納得できるような制度改正を行うべきである。なお、その際には、改革プロセスにおける政治や行政の透明性を担保することが重要である。


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