経団連くりっぷ No.169 (2002年4月25日)

経団連意見書/4月16日

経済統計の改善に向けて

−四半期別GDP速報を中心に


わが国の四半期別GDP速報(QE)については、近年、「公表時期が遅い」「改訂幅が大きい」「景気実感に合わない」などの指摘が多く見られる。統計制度委員会(委員長:井口武雄氏)では、四半期別GDP速報の問題点や改善策について、企画部会(部会長:飯島英胤氏)を中心に検討を行い、標記提言を4月16日の理事会の承認を得て公表した。以下はその概要である。

  1. 検討の視点
  2. (1)経済統計の利便性向上、(2)信頼性の維持・向上、(3)報告者負担の軽減などの観点から、四半期別GDP速報の問題点や改善策などを検討する。

  3. 四半期別GDP速報の問題点
    1. 公表時期の遅さ
      日本の四半期別GDP速報(1次速報)は、当該四半期終了から公表までに約2ヵ月7日を要し、アメリカやイギリスより1ヵ月以上遅い。

    2. 推計段階の進展に伴う改訂幅の問題
      特に、2次速報から確報にかけての改訂幅が大きい。

    3. 供給側統計との乖離
      四半期別GDP速報は主に需要側の統計から推計されるため、「鉱工業生産指数」など供給側統計との乖離が目立つ。

    4. 民間最終消費支出の精度
      民間最終消費支出の推計に用いられる「家計調査」について、「消費の実態を反映していない」などの批判がある。近年は、統計環境の悪化も指摘されている。

    5. 公的固定資本形成の基礎統計、推計方法
      速報段階で利用可能な基礎統計が整備されていないため、公的固定資本形成の精度が低下し、経済政策の決定・実施上も大きな弊害となっている。

    6. 景気実感との乖離
      四半期別GDP速報で最も注目される「実質GDP(季節調整値)の前期比」は、振れが大きく、景気実感との乖離も大きい。

  4. 四半期別GDP速報の改善の現状と方向
  5. 内閣府および関係省庁は、四半期別GDP速報の改善策を実施・検討しており、積極的な取組みとして評価できる。とりわけ、内閣府が検討中の改善策は、従来の推計方法を全面的に改良するもので、着実かつ速やかな実施が望まれる。

    1. これまでの取り組み(実施済みまたは実施予定の改善策)
      すでに、公表予定日の早期発表、民間最終消費支出・公的固定資本形成の推計方法見直しなどを実施した。

    2. 内閣府において検討中の改善策
      公表時期の前倒し(1次速報の公表時期を1ヵ月程度早める方向)、速報段階における供給側アプローチの活用(確報との整合性確保)などが検討されている。

  6. 四半期別GDP速報のさらなる改善に向けた課題
  7. 四半期別GDP速報の一層の改善に向けては、内閣府などの取組みに加えて、以下の諸課題について検討を急ぐ必要がある。改善策の着実な実施を担保するためには、中央省庁等改革の一環で導入された政策評価制度を活用し、関係省庁において政策目標を具体的に提示し、進捗状況を評価することが重要となる。

    1. 民間最終消費支出の基礎統計等の拡充
      統計調査環境の悪化が進む中で、報告者負担が大きい「家計調査」の実施は、一層困難になる可能性が高い。今後は、より多くの世帯から協力を得やすくするため、調査項目を限定した大サンプルの所得・支出調査を創設することなどが考えられる。また、供給側統計(とりわけサービス関連)の充実も重要となる。

    2. 公的部門に関する統計の整備
      速報段階での公的固定資本形成の精度を改善するには、進捗ベースの基礎統計の整備が不可欠である。国・地方を通じた歳出に関する総合的な統計整備を、電子政府実現の一環として、必要な予算措置を講じ、強力に推進すべきである。

    3. 簡易な設備投資額調査の実施の検討
      例えば、進捗ベースの設備投資額(単体)のみを別途調査すれば、連結決算の下でも、必要なデータを限られた時間内で徴集可能と考えられる。その際は、報告者負担の大幅な増加を回避するため、既存統計における調査項目の簡素化、重複排除が不可欠となる。

    4. 推計方法等の情報公開の推進(略)

    5. 民間ユーザー向けの説明等の充実(略)

    6. 統計活用方法の啓蒙・開発−景気動向との関連で
      統計ユーザーに対しても、より正確な理解にたった統計の活用を促す必要がある。第一に、経済統計の精度には一定の限界があることが、広く認識される必要がある。第二に、日本の四半期別GDP速報は、まず原系列で推計した上で、事後的に季節調整を行うため、原系列の利用が適している場合が多い(名目原系列の民間需要+輸出の合計を前年同期比変化率で捉えれば、より景気実感に近づく)。第三に、景気動向をより的確に把握するためには、四半期別GDP速報だけでなく、他の様々な経済統計も視野に入れた総合判断が必要となる。

  8. 経済統計の改善に向けた体制整備等
  9. 四半期別GDP速報など経済統計の改善を図っていく上では、個別の問題点への対応だけでなく、統計作成にあたる組織や予算面を含めた統計行政の抜本的見直しが必要となる。

    1. 主な基礎統計の企画・立案の集中化
      統計調査実施の集中化に加えて、主な経済統計については、企画・立案面でも必要かつ可能な限り集中化させることが合理的かつ効率的と考えられる。

    2. 統計資源の増強、重点配分
      現在は農林統計に偏っている統計予算・人員を経済統計に重点配分するとともに、統計予算全体の拡充も検討すべきである。

    3. 経済統計企画・立案部局の経済政策立案部局からの隔離
      統計への信頼性を高めるため、何らかのチャイニーズ・ウォールが必要となる。


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