経団連くりっぷ No.169 (2002年4月25日)

WTOサービス自由化交渉に関する懇談会(司会 團野廣一 貿易投資委員会総合政策部会長)/4月10日

国際競争力の向上を目的とした各国の高度人材受入れに関する戦略

−WTOサービス貿易自由化交渉「人の移動に関する検討会」第3回会合


WTOサービス貿易自由化交渉における「人の移動」に関する議論に関連して、高度な技術・知識を有した人材の移動に関する各国の取組みについて筑波大学大学研究センターの小林信一助教授より説明をきいた。

○ 小林助教授説明要旨

  1. 全般的傾向
  2. 各国の在留外国人の割合を国際的に比較すると、日本は1%強で先進国の中で最低の水準にある。
    知識社会の到来とともに、各国の移民政策は下級労働者の移民受入れの制限からIT関連人材を中心とする技術・知識を有した人材の受入れのための積極的移民政策へと転換している。IT関連人材等の専門技術者の不足を補うとともに、新技術への迅速な対応、国際競争力の向上、知識集積効果の推進を目的としたものである。
    人の流れ方も変化している。従来は、途上国から先進国への「頭脳流出」が問題だったが、近年はアイルランドや一部の発展途上国(中国、台湾等)を中心に一旦国外に出た労働力が戻ってくる「頭脳還流」の傾向が見られる。更には、急速に拡大するIT関連人材が一時就労ビザの期限切れをむかえて永住もしくは次の国際マーケットへ移動する傾向が出ており、「頭脳回流」の新たな動きも生じている。
    現在、(1)アングロサクソン圏、(2)中東欧圏、(3)ロシア・イスラエル間、(4)アジア・欧米間が主な人材の流動圏となっている。

  3. 主要先進諸国の基本政策
    1. 米国:
      1990年代はじめに非移民ビザの一時就労ビザにH−1B資格(特殊技能)を創設、IT人材を中心とする技術・知識を有した人材受入れ政策を開始した。その結果、1990年代は米国にとって史上最大の移民時代となった。

    2. 豪州:
      1970年代以来、移民政策の柱を家族移民政策から知識労働者のリクルートにシフトした。知識労働者の移民プログラムで5つのカテゴリーを創設し、企業幹部、IT関連労働者、会計士等の労働力の流入が進んでいる。

    3. ドイツ:
      IT分野の人材不足に対応するため、ドイツ版グリーン・カード制度を2000年8月に導入した。同制度は、非EU諸国の人を対象としており、5年間のみの就労で永住権は取得できない。

    4. イギリス:
      英国政府の1998年版「競争力白書」において起業家と専門知識を有した高度な人材の移住バリアを低くすることが国内の生産性向上、経済活性化、雇用機会の創出に繋がると指摘された。その後、供給不足の職種を選定し、IT関連の人材確保に乗り出している。また、多国籍企業の企業内転勤容易化、海外の起業家を呼び込むスキームの創設なども戦略的に行っている。

    5. その他:
      韓国、中国等においても優能な人材を積極的に受入れる動きが見られる。


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