経団連くりっぷ No.170 (2002年5月23日)

なびげーたー

国のガバナンスと空洞化

事務総長 和田龍幸


経団連くりっぷ」が最終号を迎えることになった。新団体発足を間近に控え所感を述べたい。

1990年代から今日に至る経済的困難は米国および中国との国家間競争に後れをとった結果である。1985年プラザ合意以降米国の円高戦略がいまだに日本経済の浮上を押さえつけている。毛沢東の鎖国政策からトウ小平の開放政策への大転換で世界の資本の流れが一変した。

これらの変化の中で生じた困難の一つは産業の空洞化である。この対応策としてサービス産業への期待が大きい。先進諸国では新たな雇用の増加はサービス産業によるところが大きい。だがサービス産業の行き着く先はどこだろうか。住民が全員医者だとすると医者が患者にならないと商売にならない。全員がタクシードライバーになると自分の車の運転を休んで隣の車の客にならないといけない。カジノでは1億人を食べさせられない。真理はどこか中間にあるのだろう。空洞化時代の産業構造の青写真を描く必要がある。

民主主義のもとでの政治の役割は国民を代表して国としての方向を示すことであり、政府の役割はそれを実行することにある。これに対し企業は民主主義のルールの枠の中で市場原理、競争原理に従って最善の経営を行おうとする。資本は国境に関係なく極大利潤を求めて動く。そこには政府のガバナンスは及ばない。

ボートレースで漕ぎ手は懸命に漕ぐのが仕事であり、ゴールがどこかは気にはなるがボートをゴールへ向けることは役目ではない。それはコックスの仕事である。経済団体は企業と政府の間に立ってコックスの役を果たしうるのだろうか。

競争原理が貫徹した世界では、企業は一つのアトムとして市場に参加するのみであり、団体の出番はないと思われる。集団としての企業の意思は存在しないからである。自立自助の世界が広がれば団体の役目も縮小するのだろうか。

一方、民主主義はいろいろな社会組織が主義主張をぶつけ合うことによってチェックアンドバランスが機能し、特定グループが突出することなく社会の安定が保たれるという考えがある。政治家、官僚、労働組合、消費者団体、NGO、NPOなどであり、経済団体の参加は不可欠である。

新団体は会員が増えても約1,500社。全国の法人企業数は250万。なんでも取り仕切れるほどのウェイトはない。しかし雇用数は約500万人、3人の縁者がいるとすると1,500万人のグループといえる。

団体論の掘り下げが課題である。


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