経団連くりっぷ No.170 (2002年5月23日)

アレン・サイナイP.D.E.社長兼チーフ・グローバル・エコノミスト講演会/4月19日

米国経済は回復期にあるが日本経済への波及効果は少ない


アメリカ委員会では、Primark Decision Economics, Inc. よりアレン・サイナイ社長兼チーフ・グローバル・エコノミストを招き、米国経済の動向や日本経済の展望などについて話をきくとともに懇談した。

○ サイナイ氏説明要旨

  1. 米国経済の現状
  2. 現在、米国経済はリセッションからの回復期にある。企業の在庫調整が進んだこともあり、製造業を中心に生産が拡大している。さらに、連邦政府の歳出も、安全保障やテロ対策を中心に増加している。
    米国経済が近いうちに再びリセッションに陥ることはない。その理由は

    1. 企業部門の利益が増加している、
    2. 個人消費が下支えする、
    3. FRB(連邦準備理事会)の金融政策が 1. 2. を後押しする、
    ためである。
    他方、今回の景気回復は、過去と比べて必ずしも力強いとはいえない。たとえば、企業は売上が増加したことにより、慎重姿勢から楽観姿勢へと転じ、投資を増加させているが、その多くは落ち込みのリプレースメントに過ぎない。このため、本年第1四半期のGDP成長率は5%台に留まり、通常の回復期の7〜8%には達しない。また、2002年通年では、3.5%程度と考えられ、通常の回復期の6割に留まる。
    この結果、米国経済の回復は、日本経済にも多少の好影響を与えようが、景気を大きく改善させるには至らない。

  3. 日本経済の展望
  4. 米国の利益にも繋がるため、ブッシュ政権は日本経済の回復を支援したいと考えているが、状況は厳しい。
    日本政府の取りうるマクロ経済政策のオプションが限られる中、残存する唯一の有効な手段は減税である。米国では、景気低迷期に政府が大幅な減税策を講じた結果、消費が刺激され、経済が大きく落ち込むことはなかった。その意味で、日本で先行減税を含む税制改革が検討されていることは評価でき、実施されれば需要の喚起や起業の増加に繋がるだろう。これは短期的には、税収の減少をもたらすが、景気が上向けば、将来的には増加する。
    また、迅速な金融システムの改革も求められる。現在、不良債権の存在により、銀行が貸し出しを控えているため、必要なところに資金が供給されていない。そこで、

    1. 不良債権の償却を加速させる、
    2. 破綻懸念のある企業は救済しない、
    3. 銀行の自己資本比率が低下すれば公的資金を注入する、
    ことが必要である。
    韓国や中国経済が伸び、欧州経済も回復しつつある中、以上のような施策が日本の景気回復のためには不可欠である。


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