経団連くりっぷ No.170 (2002年5月23日)

経団連・アジア開発銀行(ADB)共催セミナー/5月14日

回復途上にあるアジア経済


経団連では5月14日、アジア開発銀行(ADB)との共催により、「アジア諸国経済の見通しとメコン河流域開発(GMS)の近況、民間セクターの開発」をテーマとするセミナーを開催した。当日は約70名が参加し、藤原経団連常務理事、ミョン・ホー・シンADB副総裁による挨拶に引き続き、ADBの各専門家が説明を行った。

  1. アジア諸国経済の見通し
    ジャンピエール・A・ヴェルビースト 経済調査局マクロ経済・金融調査課長
  2. アジア経済全体のGDP成長率は、2000年の7%から、2001年には3.7%へと大きく落ち込んだ。現在は、回復の傾向が見られ、2002年は4.8%、2003年には5.8%の成長率を予測しているが、依然としてアジア地域の中期的な成長率を下回っている。
    2001年の大幅な経済成長の落ち込みは、アジア全域での輸出の大幅減が主要因であった。特に、IT関連製品の輸出依存度が高い国でその影響が顕著であり、今後の課題とも言える。また、韓国、マレーシアなどでは、好調な国内消費が経済成長を下支えした。
    東アジア地域においては、中国のGDP成長率は、ここ数年7%程度を維持している。中国の成長は、活発な公共投資など、財政政策に起因するところが大きく、今後この政策をどこまでとり続けられるかがポイントである。また、公的金融部門を中心に、かなりの不良債権があるとも言われており、何らかの対策が必要となってくる。韓国は、2002年は4.8%の成長率を予測している。構造改革、不良債権の処理も進み、内需も好調である。台湾は、不良債権を抱え、中国本土への製造業の流出による国内産業の空洞化も起きており、高い成長は期待できない。
    東南アジア全体の2002年のGDP成長率は、3.4%を予測しているが、これは低すぎる数値である。マレーシアは、不良債権の処理が進み、韓国同様高い経済成長のための基盤ができた。2002年は4.2%のGDP成長を予測している。フィリピンは、タイやインドネシアを上回る4%の成長を見込んでいるが、依然として国民1人あたりの所得が低いことや、2%の人口増加率などを考慮するとまだまだ低すぎると言えよう。インドネシアは、国家支出に占める債務への支払いコストの比率が高すぎ、財政政策のとれる余地が小さい。同様に、タイも財政政策のフレキシビリティは小さいと言える。ベトナム、ラオス、カンボジアのメコン河流域諸国の経済は、強含みである。とりわけ2001年に5.8%の経済成長を記録したベトナムは、2002年にも6.2%の成長を見込んでおり、堅調振りが目立っている。
    南アジアの2002年のGDP成長率は、地域全体で、5.4%である。インド、バングラデシュの経済は比較的良好な状態であるが、他の国では治安問題などがあり、対GDP比の財政赤字比率も高い。
    中央アジアの2002年の成長率は5.7%で、アジアの平均以上であるが、もともとのベースが低かったため、より高い成長が必要であると言える。
    大洋州諸国は、パプア・ニューギニアとフィジーが地域経済の中心であるが、政治的混乱などを抱えており、全体としても低いGDP成長率にとどまっている。

  3. メコン河流域開発(GMS)の近況
    坂井 和 メコン局企画調整課長
  4. GMSはミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナム、中国雲南省をまたぐプログラムであり、1992年にスタートした。これらの国と地域の人口を合計すると、EUの人口に匹敵する規模である。GMSがスタートした10年前は、一部の国の間に不信感も見られたが、現在はこのプログラムを通じて、信頼感が醸成されている。これはGMSの最大の成果である。
    GMSは、具体的には交通網、通信、エネルギーなど8つの協力分野からなる。最も大きな進展を見せているのは、道路建設であり、ミャンマー、タイ、ラオス、ベトナムを東西に結ぶ「東西回廊」やバンコクとホーチミンを結ぶ「南回廊」の工事が進んでいるところである。またこうした道路プロジェクトとあわせて、出入国手続きの簡素化や運送業者の国をまたがる営業への許可など、国境通過の円滑化にも取り組んでおり、今年中には各国で大枠において合意できる予定である。
    GMS参加各国には、それぞれ担当大臣がおり、毎年閣僚会合を開催している。今年は11月にプノンペンで、初の首脳サミットを開催する。各国の間でGMSへの力の入れ方が一段と高まっている証である。
    今後は、ASEANメンバー内の経済格差是正について、GMSも重要な役割を果たす必要がある。またインドがメコンに関心を持っており、インドとの関係も重要になってくる。ラオスの道路整備に対して中国やタイが支援を行うなど、GMSに参加している国の間での相互協力、いわゆる「南南協力」が見られるも新しい傾向である。

  5. 民間セクターの開発
    山縣 丞 民間部門業務局インフラ投融資課上級投資専門官
  6. ADBとしては、各国の民間セクターの開発にも力を入れている。その理由は、

    1. 発展途上国の90%の雇用は民間セクターであること、
    2. 民間の投資比率が高い国は経済発展も高いこと、
    3. 貧困ラインから脱出する人の90%は民間セクターで職を得ていること、
    などである。ADBの民間部門業務局が、民間セクターへの資金供与を担当しており、その国の経済発展に寄与することを念頭に、プロジェクトの検討を行っている。
    ADBとしては、プロジェクトに対するADBの資金供与が、商業銀行などからのさらに大きな資金の呼び水となることも意図している。ADBとしては、資金供与をするプロジェクトが、その国で今後のモデルとなることや、政府の政策への貢献、貧困撲滅につながることなどを期待している。ADBとしての資金供与は、1つのプロジェクトにつき7,500万ドルもしくは総コストの25%が上限となっている。日本を含めた協調融資に引き続き期待したい。


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