経団連くりっぷ No.170 (2002年5月23日)

資源・エネルギー対策委員会企画部会(部会長 石井 保氏)/3月28日

海外における電力分野の自由化

−電力中央研究所 矢島研究参事よりきく


資源・エネルギー対策委員会企画部会では、電気事業経営、特に海外の事例研究についての研究者である電力中央研究所の 矢島 正之 研究参事を招き、海外における電力分野の自由化について説明をきいた。

  1. 矢島研究参事説明要旨
    1. わが国の電力自由化の動向
    2. わが国では2000年に大口需要家向けの電力小売自由化がスタートした。現在、総合資源エネルギー調査会電気事業分科会では、自由化による価格低減効果や諸外国の動きを踏まえて、全面自由化の可能性、取引所設立の可否、発送電分離の可否、託送料金水準などが議論されている。

    3. EUの動向
    4. 発電、送電、配電、小売という電気事業の諸機能のうち、発電はEUの全ての加盟国で自由化されている。電気事業のコストの約半分が発電なので、ここでの競争を活性化させなければ自由化の実はあがらない。
      送配電は自然独占であると考えられており、内部相互補助の防止のためには競争分野からの分離が必要となる。これには会計上の分離、子会社化、第三者への売却などの方法がある。EUでは会計上の分離が要求されている。
      小売は、TPA(第三者アクセス、日本でいう小売託送)では発電と同一の主体が担う場合があるが、かつて英国が採用していた強制プールのように発電と小売が分離されるモデルもある。EUでは小国を除くほとんどの国でTPAと任意プールとが組み合わされている。
      EUは加盟国に対し、2003年までに小売の33%の開放を義務付けている。欧州では電源に余裕があり、系統がメッシュ状で系統制約が少ないなどの背景もあって、EU委員会はさらなる自由化を検討している。

    5. 米国の動向
    6. 米国でもEUと同様に自由化が進められてきたが、対照的に、1992年の卸自由化以降大容量の長距離送電が増えたことで系統連携の脆弱性が露呈し、2000年にはカリフォルニア電力危機が発生した。
      電力危機の原因を小売価格規制に置く見方がある。しかし、規制がなかったSDG&E社の地域では、小売価格が2〜4倍に高騰し、主として低所得者がしわ寄せを受けた。つまり、卸価格が5〜10倍に高騰したことが危機の本質であった。
      電力危機の教訓として、競争が機能するためには十分な発電・送電能力が不可欠であると考えられるようになった。とりわけ送電設備をいかに整備するかは議論の的になっている。ISO(独立系統運用者)は資産を所有していないため主体的な投資はできない。送電会社については、混雑の発生によって混雑料金が得られるので投資インセンティブが働かないという意見がある。
      また、取引所への全面的な依存は意図的な価格吊り上げを招くおそれがあり、相対取引を重視すべきであると言われるようになった。すなわち、垂直統合だけでなく水平的な規模拡大も市場支配力の源泉となることが認識されるようになった。
      電力危機以降、米国でもエネルギーセキュリティに対する懸念が高まり、「国家エネルギー戦略」で原子力開発の促進がうたわれた。原発の1940年から1960年への再ライセンス、原子力規制委員会の許認可の簡素化が実施される予定である。

    7. 電力自由化と原子力
    8. 原子力には次のようなリスクがある。

      1. 将来における電力価格や競合技術の動向が不透明である中、長期にわたる投資運転管理が必要。
      2. バックエンド(廃棄物の処分・廃炉)のコストが、運転が終了し収入が途絶えた後に発生。
      3. 許認可手続きの複雑化・政治的圧力による早期閉鎖。
      このようなリスクのもと、自由化により経営の不確実性が増大すると、減価償却が済んでいる既設の原発は競争力を有するものの、原発の新設は難しくなり、リスクが小さいガスタービンが選好されるようになる。例えば英国では1990年以降、計画中だった1基を除き原発の新設はない。米国では、エネルギー省が使用済み燃料を1kWh当たり0.1セントで引き取り責任を持って処分していることもあり、経済的で安全な新型炉については新設の動きはあるが、既存の炉型についての動きはない。
      一方フィンランドでは、1997年の全面自由化の後も、TVO社による原発の新設の動きがある。同社はエネルギー多消費産業によって所有されている電力会社であるため、電力の買い取りが保証され、リスクの低い経営が可能となっている。処分場建設が順調であることもこれを後押ししている。
      わが国は2010年までに10基を新設するとしている。電力自由化と原子力との調和を図るためには、政府は法的枠組みの明確化と政治的コンセンサスの確立により、原子力に係る経済的・政治的リスクを低減させていくべきである。
      温暖化対策の観点からは、原子力への補助金もしくは化石燃料への課徴金は、外部効果を内部化する手段の一つである。

  2. 意見交換(要旨)
  3. 質問:
    各国のバックエンド対策はどうなっているのか。
    矢島研究参事:
    バックエンド対策は、日本では電力会社が対応しているが、フランスでは国有の機関が、米国では国が責任を有している。British Energy社も競争環境下では国が使用済み燃料を引き取るべきであると主張している。廃棄物の管理は1万年のオーダーになり、その間に電力会社はなくなるかもしれない。費用は電力会社で引き当てるべきだが、最終的な管理の責任は国が負うべきである。

    質問:
    エネルギー問題では長期的視点が不可欠だが、自由化のもとで短期的視点との矛盾は生じないのか。
    矢島研究参事:
    自由化によってダッシュ・フォー・ガスという状況が生じた。英国、米国共にガス田の生産量は減少していくと見られており、セキュリティが懸念視されている。自由化と原子力との調和も重要な課題だが、先進国ではわが国のみが原発の新設に迫られていることから、わが国固有の課題と言える。

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