経団連くりっぷ No.170 (2002年5月23日)

輸送委員会企画部会(部会長 横山善太氏)/4月23日

今後の航空行政の展開

−国土交通省航空局 星野監理部長よりきく


近年、近隣アジア諸国において国際拠点空港の整備が急速に進む中、わが国では現行の第7次空港整備七箇年計画が2002年度を以って最終年度を迎えることから、国の空港整備計画の策定作業が本格化している。さる4月5日には、政府の交通政策審議会航空分科会が発足し、今後、 集中的な審議が行われていくと予想される。そこで、輸送委員会企画部会では、国土交通省航空局監理部の星野茂夫部長を招き、今後の航空行政の展開について説明をきくとともに、意見交換を行った。

  1. 星野部長説明要旨
    1. 空港整備長期計画に関する審議状況
    2. わが国では、これまで7次にわたって空港整備長期計画が策定されてきた。現行の第7次七箇年計画が今年度で終了するため、来年度以降の空港整備の基本的な考え方については、交通政策審議会航空分科会の空港整備部会において、本年4月より集中的に審議を進め、8月頃、答申に向けた中間取りまとめを行う予定である。
      従来の整備計画との大きな相違点は、空港整備事業に係る計画額を設定するのではなく、何のために航空政策や空港整備が必要なのか、国民・利用者の視点から、政策評価のためのアウトカム(政策目標)指標を示していることである。
      審議における主要な論点は、今後の空港行政の基本的な考え方や、より厳密な航空需要予測、さらに国際拠点空港・国内空港の整備推進方策、羽田の再拡張問題などである。また、パブリックコメントなどを通じて、空港整備の基本的な考え方や関連データを広く国民に情報公開していきたい。

    3. 空港整備の現状および今後の方向性
    4. (1) 国内空港:

      時間価値の高まりに対応し、高速交通体系を構築する上で、航空は重要な役割を果たしている。国内航空需要も着実に増大しており、1993年〜2000年のGDP伸び率が約1.2%であるのに対して、同期間の旅客の伸び率は4.1%、貨物の伸び率は4.3%となっている。また、航空ネットワークの整備に伴い、国内の任意の地域から一日のうちに日帰りできる人口比率が、1965年の42%から1998年には60%へと拡大している。新たな需要予測に当たっては、量的な拡大のみならず、利便性、運賃、多様なルート選択など質の向上によって、国民の消費者余剰を増すことが重要である。
      しかしながら、航空の利便性を高める上で羽田の容量(発着枠)不足が最大のネックである。日本の定期航空便が依存する大型ジェット機は、大量輸送という効率性に優れるものの、路線の便数増加を困難にしている。4月18日の成田空港暫定平行滑走路の供用開始に伴い、乗客50人程度のリージョナルジェットのフィーダーサービスが認められるようになった。時間帯に応じて、より柔軟に輸送することが可能となり、利用者の利便性向上が期待されるが、羽田の容量不足という状況下、リージョナルジェットの便数拡大は困難である。
      また、国内空港の現状における大きな問題として、地方路線の維持困難が挙げられる。地方空港の割高な着陸料という問題に加え、1発着当たりの採算性が合わない地方路線にジャンボ機を投入したがらない航空会社の判断が大きい。これも、羽田の容量が限界に達し、わが国の航空輸送が大型機に偏っていることが影響している。さらに、空の輸送が首都圏および大阪圏に偏在していることから、新しい航空サービスを行おうとしても、羽田に入れなければ商売にならず、新しいビジネスモデルが生まれない。
      このように、羽田の容量不足が全ての航空政策を歪めている。わが国全体の航空ネットワークを改善する上から、羽田の容量をいかに増やすかが、今後の航空政策のポイントとなる。

      (2) 国際空港:

      ボーダレス化や都市間競争が進む中、国際拠点空港は世界に開かれたゲートウェイとして位置づけるべきである。アクセスの利便性を高めることが都市の競争力向上につながる。シンガポールのリー・クワンユー前首相はかつて「港湾や空港の水準がその国のレベルを決定する」と主張したが、アジア各国ではこのような認識のもと、国際拠点空港の整備が重要な政策目標に掲げられている。
      こうしたことからも、日本の国際拠点空港については、成田、関空、中部の3空港が必要である。成田の利用客の地域カバー率をみると、首都圏が約7割となっている一方、関空については近畿圏6割のほか、四国、北海道、北陸にも及んでいる。利用客の選択という観点からも、国際拠点空港は成田一つで十分ということにはならない。
      他方、国際ハブ空港論がわが国でしばしば議論の対象になるが、空港の国際競争力は路線の集積や便数で決まるものである。路線の集積は、地域需要によって促進され、羽田や成田では、首都圏の需要によって世界中の路線が集まっている。空港の競争力は、単に着陸料によってのみ決まるものではなく、現実にどれだけ路線の集積が確保できるかによって評価すべき問題である。
      ハブ空港論が、空港経営の一つのビジネスモデルであることは理解するが、全てではない。例えば日本の航空会社がハブ・アンド・スポークの運航を行おうとしても、自前の大型機材でスポーク部分の運送を行うことは困難ではないか。したがって、現実の路線集積や設備投資の動向を踏まえれば、「成田の着陸料が高いから、アジアの空港との競争に負け、日本は東アジアのハブとしての機能を仁川に取られてしまう」という危惧は全く根拠がない。
      関空についても、財政や供用開始時期などさまざまな点が議論されているが、中長期的な展望に立てば、国際拠点空港の機能を果たす上から、2本目の滑走路が必要である。

  2. 意見交換(要旨)
  3. 経団連側:
    国内航空網における羽田空港についての議論はどのように進展するのか。

    星野部長:
    東京への企業集積などが相当程度進んだことから、羽田の需要は必ずしも上向きにはならないのではないか。また、機材の小型化がどの程度進むのか、航空会社の今後の経営戦略も勘案しつつ、羽田整備の方向性を検討していきたい。

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