真の「共生」は変革の実現から

豊田 章一郎 経団連会長


日本で「共生」について議論が盛り上がったのは、91年秋の経団連訪欧ミッションの際、欧州経済界から日本企業に対する強い批判の声が出たことがきっかけでした。平岩会長(当時)は、海外諸国と共に発展する企業行動の望ましいあり方として、「共生」という考え方を提起されました。

その後、「共生」は、海外との調和ある発展ということだけでなく、国内でも、企業と社会、消費者・生活者との関わり、さらには人類共通の課題である地球環境問題など、より幅広い視点から議論されるようになりました。また、“日本型経営”を見直し、従業員、株主、取引先、地域社会など企業活動に関わる人々を広く視野に入れる新しい経営理念も盛んに議論されました。一方、「共生とは、結局のところ強者の論理にすぎない」とか、「カルテル志向の考え方である」といった批判もあったように思います。

こうした中で、92年7月に開催された経団連の東富士フォーラムでは、「共生と変革の時代」というテーマのもと、「共生」について活発な議論がかわされました。私は司会役として、「共生とは、異質なものを互いに認め合い、ダイナミックな競争を維持しながら、全体としての利益になるような形で、より発展的に共存することである」と参加者の討議をまとめてみました。平岩会長も、「共生は地球・市場・人間をつなぐ理念であり、競争の否定、生産者本位論、棲み分け論や妥協、安住とは違う。市場での競争を前提とする」と言っておられます。「共生」は、市場における企業の自由で活発な競争を前提にしているという点について、私たち産業界の共通の認識が出来ているように思います。

現在の日本が取り組んでいる経済構造の変革は、「共生」の理念の実現につながるものです。日本は今、自己責任原則を徹底した活力ある経済社会、国際社会と調和した経済社会づくりをめざしています。真に豊かな国民生活を実現すると同時に、アジア・太平洋地域をはじめとする世界経済全体の調和ある発展に貢献していかねばなりません。現在、経団連は、「規制の撤廃・緩和の推進」や「新産業・新事業の創出」、「創造的な人材育成」、あるいは「税制の抜本的改革」などを重要の課題として取り組んでいますが、これらは、いずれも21世紀の新しい日本の経済社会を創造するための取り組みに他なりません。

日本経済のダイナミズムは産業界の取り組みにかかっています。変革を実現することが真の「共生」につながります。産業界は、変革を自らの課題としてとらえ、ビジョンを描き、具体的な行動として、一つひとつ着実に実行していかねばなりません。

(とよだ しょういちろう)


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