「経済社会の基本構想」の検討に向けて

齋藤 裕 経団連評議員会議長


経団連においては今後1年程度をかけて、21世紀前半を展望した活力と創造性あふれる経済社会の具体的構想を作成し、その実現のための方策ならびに経団連の役割を示すこととしている。容易ならぬ大きな課題を負うこととなるわけであるが、戦後50年、われわれは今や大きな経済社会の転換期に遭遇して、21世紀の展望を基本的に考え直さねばならない必要に迫られている。

想えば50年前、敗戦により荒廃したわが国経済社会から文字通り這い上がり、なんとか人並みの生活を取り戻してからは、ひたすら戦勝国の経済水準に追いつけ追い越せの経済成長一辺倒の途を突き進んできたように思える。その間はなはだ幸いなことに、わが国は新憲法により戦力となる再武装を避けて、アメリカの核の庇護の下に防衛費の負担も極めて軽く、しかもすぐ近くに起きた朝鮮戦争やベトナム戦争にも巻き込まれることなく、この50年を国際的に最も平和に過ごしてきた。その結果、世界経済の奇跡といわれた高度の経済成長を遂げ、世界第2の経済大国となったのである。追いつき追い越した後に行き当たったもののひとつは、わが国が国際経済社会の中にもたらした不調和である。巨額な経常収支の黒字に起因する昨今の急激な円高に一体どう対応していくのか。今までに日本の書いた処方箋ではアメリカをはじめ諸外国を納得させるに至らない。日本経済の景気回復に暗雲がかかってきた。

このほかにも今年は春早々に阪神・淡路大震災により、わが国が誇ってきた防災の土木建築構造物が脆くも崩れて基本的に見直しを要することとなったり、また地下鉄サリン事件が起きて、社会的に保安の最も心配の無い国といわれたイメージも揺らぐこととなってきた。この50年間考えもせず、心配もしなかった事柄が次々と起こって危機管理の甘さと不十分さが指摘されているが、これからのわが国の経済社会の基本構想を明らかにすることがなければ、21世紀に向けて海図なき航海に出ることとなろう。

われわれは「平和ボケ」といわれる状態から早く抜け出して、すべての問題を他力本願でなく自らの手で考え解決していく途をつけねばならない。そしてこれからの国際社会に生きていくためには一国経済主義、一国平和主義と称せられる考え方は捨て去る必要のあることに思いを致さねばなるまい。そういうビジョンを持つ国でなければ、いくら経済大国でも諸外国から敬意を払われる国とはならないのではないかと考える。(さいとう ひろし)


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