理想を高く掲げて より魅力ある日本を目指す

経団連の描く21世紀日本のビジョン

豊田 章一郎 経団連会長


昨年経団連ミッションでASEAN諸国を訪問した際、アジアの若者が自国の将来や自分の未来に明るい夢や希望を抱いて活き活きと国づくりに励んでいる姿に深い感銘を受けた。

日本人は、もっと「高い目標」を持つことが必要ではないか。将来に大きな夢をもち、それに向かって努力すべきだ。昔の子供は、大きくなったら、陸軍大将になるとか、大臣、科学者になるなどいろいろな「夢」があった。それに比べ、総理府が最近実施した国民生活に関する世論調査によると、現在の生活に「満足」、「まあ満足」という答えが全体の7割以上を占め、過去最高だったそうだ。今の若者は「こんなに良い国はない」「もうこれ以上何もすることはない」と現状に満足してしまっているのだろうか。

これではいけない。世界の現実に目を向けてみると、メガ・コンペティション(大競争)の時代にあって、日本はグローバル化、高度情報化への対応に後れをとっている。また今後、諸外国にも例のない高齢化、少子化社会を迎えるが、それへの準備も整っていない。さらに経済大国としての国際的責務を十分果たしていないのが実情ではないか。このような状況を放置して現状に安住すれば、日本は現在の生活水準を維持できなくなるばかりか、世界からも孤立しかねない。日本人は、今こそより良い日本、より良い世界を目指すべきである。

そこで経団連では2020年ごろを展望して日本のあるべき姿とそれを実現するための道筋を示すため、昨年の4月から21世紀のビジョン「魅力ある日本の創造」をとりまとめているところである。私としては、日本を、若者が未来に希望を持ち、世界の人が日本に住んでみたい、日本でビジネスをしてみたいと思う「魅力のある国」にしたいと思う。

このビジョンでは「世界の中の日本」という視点を特に意識した。世界に視野を広げてこそ、日本の目指すものが明らかになると思う。世界には、まだ貧困に悩む多くの国がある。それらの国の人人が、より豊かな生活を送れるよう日本が協力することは、私達にとっても心に満足を感じることのできる、楽しいことだと思う。

経団連の考える、21世紀のわが国の望ましい姿はグローバルに考え、グローバルに行動し、グローバルな責務を果たす「活力あるグローバル国家」である。これを実現することができれば、わが国は、「世界から信頼され、尊敬される国」になるだろう。「尊敬される国」という表現については、おこがましいという意見もあるが、尊敬されようと思えば自分自身の行動も制約されるから、私は大変良いことだと思っている。

そういう日本になるためには、人材教育も重要である。創造性や国際性に富み、目標に向かって自主的に取り組めるような人を育てることが求められている。また次代を担う子供たちは、学校の勉強だけでなく、ボーイスカウト活動やボランティア活動にも積極的に参加し、外国に行ったら外国の子供たちとも自由に付き合えるようでなくてはならない。そういう子供たちが、将来、国際社会で信頼され尊敬される、新しい日本のアイデンティティを確立していくことを大いに期待したい。

(とよだ しょういちろう・談)


日本語のホームページへ