都市づくりのパイオニア

末松 謙一 経団連副会長


百万ドルの夜景を誇った国際都市神戸。この大都市を一瞬のうちに瓦礫と化した阪神・淡路大地震から、はや1年が経過した。私は、震災後現地に足を運ぶたびに、地震という自然の計り知れない力の恐ろしさを再認識させられるだけでなく、慶應3年の開港以来、永年にわたって神戸という町を築き上げてきた先人たちの無念の声が、どこからともなく聞こえてくるような気がしてならない。

今神戸の街は、住民や自治体を中心とした関係者の懸命な努力によって、震災直後の予想を上まわる早さで復興が進み、旧来の明るさを取り戻しつつある。かかる神戸の復興は、単に神戸の街を旧に復すという問題にとどまるのではなく、大震災で得た教訓を活かし、今後の新たな都市づくりを考える上で極めて重要なものとなることは言うまでもない。

本来、都市は、居住や商工業活動等を担う場として、そこで生活する人間を中心に形づくられるべきものであろう。しかしながら、戦後のわが国の都市は、成長志向の下、効率的な側面が偏重され、その歪みともいうべき問題が、過密化や商・住の無秩序な混在による住宅環境の悪化などに現れている。そして、自然、文化、芸術といった安らぎを与え人生を豊かにする諸環境についても、欧米都市との格差は歴然である。

こうした反省に立ってこれからの都市のあり方を考えると、建造物の防災設計、通信・交通・ライフラインなどのインフラの強化等、災害に強い街づくりを目指すことと共に、1人ひとりの生活者が真に豊かでかつ安心して暮らせるよう、思い切った発想で都市計画に取り組むことが必要となろう。

本年以降、首都移転問題が具体化に向けて新たな段階に入っていくが、新首都建設のグランドデザインを描く意味からも、新生神戸が21世紀を見据えた都市のパイオニアとして永く語り継がれるよう、明確なビジョンの下で新しい都市づくりが行われることを切望してやまない。

(すえまつ けんいち)


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