月刊 keidanren 1997年10月号 巻頭言

「自己責任」「自己開示」「自己点検」

樋口副会長

樋口廣太郎
経団連副会長


変革の時代にあって、ますます「自己」という観点が重要になってきた。「自己責任」「自己開示」「自己点検」の三つである。

まず「自己責任」であるが、国を挙げて推進している六大改革の流れは、否応なく企業、個人を“自己責任原則”の荒海の中に放り出してしまうということを自覚するべきである。規制が撤廃・緩和されれば、それだけ自由になるが、一方、それだけリスクも増大する。みんなで渡れば怖くないといった横並び主義や、誰かが何とかしてくれるだろうといった甘えは、もはや許されないのである。

企業内においても、経営者、役員、管理職、社員のそれぞれが、それぞれの立場、権限、責任を明確にしながら、法とルールに則った社会常識を重んじる企業風土を醸成していくことが何よりも求められる。

次に「自己開示」である。フリーでグローバルな大競争時代においては、絶えず自社の情報を発信し続ける企業、自らの存在を主張し続ける企業だけが、勝ち残ることができるのである。あらゆる機会をとらえて、トップの考え、方針、企業活動を伝えていくことはもちろんのこと、企業のマイナス情報についても、なぜそうなったのか、そして次にどういう手を打っていくのかを明らかにしていけば、むしろ社会の信頼を獲得するはずである。

最後に「自己点検」である。輝かしい日本の発展を支えてきた世界に冠たる“日本的経営システム”も、すべてというわけではないが、部分的な動脈硬化を起こしはじめている。個々の企業においても然りである。

この変革の大潮流が、組織内部の旧習を押し流し、時代にあった新しい、しなやかなシステムをつくる絶好のチャンスだということを自覚し、自らの足下を見直す“自己点検”を急ぐ時ではないだろうか。

(ひぐち ひろたろう)


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