月刊 keidanren 1998年 4月号 巻頭言

リーダーシップとコミュニケーション
トップダウンによる迅速な変革の時

鈴木副会長

鈴木敏文
経団連副会長
イトーヨーカ堂社長


昨日の常識が、今日はもう通用しない──いま、変化はそれほど激しく、しかも常態と化している。その上、早急に解決を迫られている課題は、図らずも時代のパラダイム転換に対する不整合性を露呈してしまった国内諸システムの再構築、地球規模での環境対応等、極めて多岐にわたっている。

この時にあって、強く求められているのは、リーダーシップではないだろうか。長らく日本型経営の長所といわれてきたのは、下からの合意の積み重ねによる意思決定、いわゆるボトムアップ型と呼ばれる方式だ。しかし、矢継ぎ早に解決すべき問題が押し寄せている今日、下からの合意を積み上げていては、迅速な対応は不可能だ。また、リーダーが全体を俯瞰し、合理的かつ果敢な判断を下さなければ、全体の最適化や根本からの変革は進まないだろう。

以上のような視点から、私はトップダウンによる素早い意思決定とそれを実現する強力なリーダーシップの必要性を説きつづけてきた。しかし、リーダーシップを発揮するに当たり、欠かすことのできない大切なポイントがある。それがコミュニケーションだ。一つの組織が根本から考え方や行動を変えていくには、組織の構成員が「変える」ということの必要性や重要性を同じレベルで共有し、納得することが不可欠である。

人は、長年慣れ親しんだ発想や行動様式を変えることが難しい。まして、未知の状況に出会った場合は、どうしても過去の成功体験に照らして解決を図ろうとするものだ。そうであるからこそ、「いま、なぜ、変えなければならないのか」ということを、全員が納得するまで繰り返し説きつづけることが、リーダーの責務といえるだろう。

私はその意味で、関係者が直接顔を合わせ、確認しながら理解を図る「ダイレクトコミュニケーション」を重視している。それは、時代が、社会や企業経営の根本からの変革といったダイナミックな対応と、消費者一人ひとりの心理にまで分け入ったきめ細かな対応を、同時に必要としているからだ。

いずれにしても、即効力のある便利な解決法は存在しない。当たり前ともいえる基本的な事柄を着実に、しかも迅速に実行に移していく決断力と行動力が、いまリーダーに求められている。

(すずき としふみ)
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