月刊 keidanren 1998年10月号 巻頭言

規制緩和のはざまで

辻副会長 辻 義文
(つじ よしふみ)

経団連副会長
日産自動車会長

経済の活性化のため、金融ビッグバンを初めとし、国際化の流れに沿った多くの規制緩和が提案され、関係当局の努力で撤廃または緩和されたものも多いが、最近思った2点について触れてみたい。これらは海外では実施されているが、わが国では未実施のものである。

1つは、団体などの役員に名を連ねた時の事務手続きの煩雑さである。経験のある人も多いと思うが、ある団体の役員になると自動的に他の団体の役職を兼ねるケースが多い。これらの団体が公益法人である場合 ─ 公益法人の数が多いこと自体も大問題だが ─ 殆ど例外なく実印と印鑑証明が必要ということになる。ある時など所管官庁が3つあるから3通提出してくれと言われ、あきれたことがある。印鑑証明をとるために区役所に行くと、住民票とか戸籍抄本など、これも規制により添付を求められているのではないかと思われる証明書の発行に、大きな仕事の割合がさかれている。印鑑を持参した上で手続きに10分位かかった頃に比べ、コンピュータに印影が登録された今は5分程度で済むようになったのは大きな改善としても、サインで済ますことができればゼロになる。なぜサインが駄目で印鑑なのか。

もう1つは、国民背番号制の採用についてである。これについては時々大きな声になるのだが、何となく消えていくのは誠に不思議である。学者に聞いても、産業人、ジャーナリストに聞いても、賛成の人が多いように思うが、実現しないのはなぜだろう。われわれはすでに健康保険証、運転免許証、年金証等、多くの公的番号を持っており、統一の背番号を持つことが大きな障害になるとは考えにくい。逆に納税制度の認識を強めるためにも有効である。背番号は付けるが、納税には使わないなどというのは本末顛倒も甚だしい。徴税事務の簡素化や、捕捉率の向上等のメリットはもちろん、サマータイム制が実際の省エネ効果よりも環境意識の醸成に役立つと考えられるのと同様の効果もあると思うが。


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