月刊 Keidanren 1999年 3月号 巻頭言

製造業の視点から考えるアジア経済の再活性化

前田副会長 前田勝之助
(まえだ かつのすけ)

経団連副会長
東レ会長

アジアの経済危機到来から1年半が経過した。IMFの支援等により外貨不足に伴う危機は回避されたが、景気後退や失業の増大、信用収縮など、依然経済不振が続いている。

現在、わが国の対アジア貿易は輸出入合計で36%を占め、対北米貿易の30%を上回るほか、対アジア直接投資残高は約800億ドルで対外直接投資全体の31%を占めるなど、アジアとわが国の経済関係は極めて深い。厳しい現状を克服しアジア経済を再活性化させることは、わが国にとっても経済の回復に欠かせない非常に重要な課題である。

アジア経済の再活性化のためには、次の諸点が必要である。

第1は、日本経済の回復であり、昨年来の経済対策を着実に実行し、内需拡大を早く実現することが重要である。

第2は、アジアに進出している日本企業が各国での事業を継続し、雇用維持や投資拡充を図り、各国経済の活性化と発展に貢献することである。また、新宮澤構想による各国の産業・経済活動に対する資金支援の早期実現も強く求められる。

第3は、為替安定化のための国際的枠組みの構築である。今回のアジア危機の背景にはヘッジファンドに象徴される国際的な投機資金の流出入があり、これがアジアの通貨や株価の大変動をもたらし、さらには経済危機の原因となった。各国の経済実力と乖離したこれら投機資金の大移動は、アジアのみならず世界経済にも悪影響を及ぼしており、今後、為替・資本移動に関する監視機能やヘッジファンドへの融資規制等を含む、国際的な枠組みを構築することが必要と考える。また併せて、円の国際化を推進し、アジア地域経済の安定成長に貢献することが必要である。

第4は、アジア各国自身の取組みであり、現在進められている経済構造改革や景気対策等のほか、各国がこれまで蓄積してきた産業基盤を礎に、雇用能力の高い労働集約的な産業を再評価し、その強化に力を入れることが重要と思う。

これらを通じ、アジアの発展と共存共栄に向けて、わが国が政治・経済両面でリーダーシップを発揮し、各国の期待に応えていくことが国際的責務である。


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