月刊 Keidanren 1999年 4月号 巻頭言

21世紀に向けて、現世代に残されている課題

大賀副会長 大賀典雄
(おおが のりお)

経団連副会長
ソニー会長

日本経済は、残念ながら、資産デフレに始まる悪循環に陥っている。日本は、戦後一度も、デフレの危機を経験したことがない。従って、デフレがどれだけ怖いものであり、一旦、そうなると回復がいかに難しいかという危機感が、不足していたように思う。特に、一昨年、景気を上向かせ、良い方向に転がすために、アクセルを踏んで加速すべき時に、財政構造改革というブレーキを踏み続けてしまった。

しかし、昨秋来、小渕政権のもと、日本経済再生を最優先課題として、経団連も政府も、ベクトルを合わせて、正面から取り組み、あらゆる努力を行なってきた。方向性は正しいものであると信じている。

経済は、地域や分野が連関し、車輪のように、一緒に回っている。これが、ポジティブに回り、景気が良くなれば、税収も増える。この車輪を回すためには、力の入れやすいところから、押していく必要がある。その分野が個人消費であり、住宅投資であると考えてきた。

日本の住宅は、先進諸国の中でも、最も劣っており、大きな潜在需要がある。昨秋、政府は、大規模な住宅取得時の優遇税制を決定したが、2年間時限という措置が、消費者心理を捉え、その効果に期待ができる。

一方、そもそも、日本の住宅事情の国際的な遅れを取り戻すことは国家的課題であり、住宅政策は、従来の量(戸数)的拡大から、質的向上をめざす方向に大きくシフトすべきである。住宅分野に関心が高くなっているこの機会を捉えて、国民が、より良質、より広い住宅を取得できる政策が重要である。そのようななか、私は、住宅に課せられている消費税は、再度議論が必要であると考えている。先進諸国においては、付加価値税は、不動産には課税しないのが一般的である。日本の場合は、住宅取得時に四重に課税(消費税、不動産取得税、登録免許税、印紙税)されている。

国は、時代に応じて、国民にどういう生活を実現たらしめるのかというビジョンを創り、そのビジョンに則って、制度を見直し、変えていかなければならない。住宅や住宅が構成する街並みは、その国の文化度の高さを表わすと考えるとき、現在の世代が努力すべきことは、まだ、多く残されている。


日本語のホームページへ