経営タイムス No.2634 (2002年6月20日)

第90回ILO総会開幕、ミャンマーの強制労働問題など討議

−奥田会長が代表演説/経済・社会両視点の必要性強調


 第90回ILO総会が3日、スイス・ジュネーブで開幕した。会期は20日まで。日本経団連は、奥田碩会長を代表とする6人の日本使用者代表団を派遣、11日には奥田会長が代表演説を行い、日経連と経団連の統合の意義などについて報告した。また、理事選挙では、鈴木俊男・NICC専務理事の使用者側理事就任(3回目)が決まった。

鈴木NICC専務理事、理事選挙で当選

 11日の代表演説で奥田会長は、日経連と経団連の統合について、「今日、われわれが抱えている課題への取り組みには経済と社会の両方の視点が必要という認識によるもの」と説明。ILOの主唱するディーセントワーク(権利が保護され、十分な収入があり、適切な社会的保護を受けられる人間らしい労働)の実現についても、経済・社会、両面でバランスのとれた発想が必要と主張した。
 さらに、グローバル化の下では、共通の土台に立った上でそれぞれの地域や国が個性を発揮することが活力の基本であるとし、ILOの活動に対して、ディーセントワーク実現のためのユニバーサルな最低基準を普及しつつ、多様性を前提として各国、各地域のニーズに密着した支援を行うよう求めた。
 また、10日には、理事選挙が行われ、鈴木俊男NICC専務理事が、使用者側理事として3回目の当選を果たした。

<委員会の進捗状況>

 総会における各委員会の進捗状況は次のとおり。

■条約勧告適用委員会

 各国における条約勧告の適用状況を審議する同委員会では、8日にミャンマーの強制労働問題に関する特別セッションが開催された。ILOでは、強制労働が行われているミャンマーに対して制裁措置が発動されているが、5月には現地政府の了解の下、ILOのリエゾンオフィサーが設置された。委員会はこうした政府の協力姿勢を前進と評価しつつ、実態的な改善にはまだ隔たりがあるとし、一層の努力とILOに対する報告の継続を要請した。

■第4議題「協同組合の促進」(第2次討議)

 同議題は、1966年の「発展途上国の経済的、社会的発展における協同組合の役割に関する勧告」(127号)の改正を目的としている。適用範囲を先進国まで拡大し、併せて時代の変化に即した勧告を採択しようとするもので、昨年第1次討議が行われた。勧告案は、前文および本文18項からなり、これについて各国政府や労使から140を超える修正案が提出され、検討が進められている。
 協同組合の経済的発展を促すことを基本とする使用者側と、具体的労働基準を織り込もうとする労働側との間で、意見の対立が見られる。
 また、協同組合の支援策について、使用者側が他の経済主体より有利な扱いにならないよう主張しているのに対し、労働側が特別な措置を求め、これも争点となっている。

国際文書の形式で紛糾

■第5議題「業務災害・職業病の記録及び届出」(1回討議)

 同議題は、業務災害や職業病の予防措置を講ずるためには正確な情報が必要という認識の下、1981年に定められた第155号条約「労働安全衛生条約」(日本は未批准)を補足する基準を設け、併せて職業病一覧表について検討することを目的としている。
 会議の開始以降もっとも紛糾したのは、この国際文書の形式を議定書(条約を補足するもので、批准により法的拘束力をもつ)とするか、勧告とするかについてである。
 使用者側は拘束力のない「勧告」を主張したが、労働側と意見がわかれ、結局は政府委員を含めた投票により「議定書」の形をとることになった。
 その後、内容の具体的検討が続いている。働く者の安全と健康確保という目標については一致しているものの、拘束性のある文書において確保されるべき内容の範囲をめぐってしばしば政労使の意見が食い違い、活発な議論が進められている。

■第6議題「インフォーマル・エコノミー」(一般討議)

 同議題は、近年、途上国、先進国を問わず急速に拡大しているインフォーマル・エコノミー(公的機関により捕捉、保護されない経済活動分野)では、社会的保護が受けられなかったり、不当に安い賃金や危険な労働条件の下で働く人が大勢いるという問題意識から、その改善方法について討議を行うもので、国際文書の採択は目的としていない。
 フォーマル経済での雇用吸収力の低下がインフォーマル経済で働く人々の増加をもたらしているとの認識の下、労働側と一部の政府は、インフォーマル経済で働かざるを得ない人々・企業をフォーマル経済へ移行させるための積極的な方策(教育訓練、金融上の支援策、フォーマル経済での雇用創出策)と併せて、団結権、団体交渉権などの基本的権利を重視する政策を打ち出すべきと主張。使用者側は、労働側の主張に理解を示しつつも、インフォーマル経済は起業家精神の源であり、そのダイナミズムを活かすべきで、まずは規制緩和や信用供与システムの充実に取り組むべきとの見解を表明している。


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