経営タイムス No.2637 (2002年7月11日)
日本経団連(奥田碩会長)は4日、大阪・中之島のリーガロイヤルホテルで、第1回関西会員懇談会を開催した。懇談会には奥田会長はじめ副会長、関西地区会員など300名が参加し、「魅力と活力あふれる豊かな日本を目指して」をテーマに意見を交換した。奥田会長は冒頭あいさつで、魅力と活力にあふれた日本を創造するため「新しい国づくりに向けたビジョンを年度内に作成する」ことを明らかにした。会合では、片田哲也副会長はじめ副会長8氏から、当面する諸課題や取り組み状況が報告・説明されたほか、井植敏・三洋電機会長はじめ関西地区会員から環境や労働・技術開発問題、規制改革などについて発言があった。
冒頭あいさつで奥田会長は、日本経済の現状について「アジアなどへの輸出増加を背景に、生産が下げ止まり景気は底を打ち、やや明るさも見え始めている。しかし、先行きは楽観できない」との認識を示した。その理由として設備投資や住宅投資が引き続き低迷していることなどを挙げた。
次いで、奥田会長は、わが国は、少子・高齢化やグローバル化など大きな環境変化に直面しており、新時代を切り拓くには、「構造改革を加速し、個人や企業が自由で大胆に発想し、リスク・テイクを恐れず果敢に行動できるダイナミックな経済社会システムの構築が急務である」と強調した。その上で、「日本経団連は、改革の先頭を切り、個人や企業が活力を発揮しやすい環境整備に全力を上げて取り組みたい」との決意を示した。
加えて、今後の課題について「政府の役割を思い切って見直すこと」と強調。具体的に (1)規制改革や特殊法人改革を進め、経済活動への政府の過剰な関与の排除 (2)税と社会保障を合わせた国民負担の上昇抑制 (3)民間活力を生み出すための法制・税制・インフラの整備。特に税制面では、法人税の引き下げなど (4)貿易や投資の更なる自由化に向けた、戦略的な対外政策の推進――などの課題を挙げた。
最後に奥田会長は、わが国の具体的な将来展望とその実現のために必要な制度改革や工程表を含む、新しい国づくりに向けたビジョンを年度内に作成する予定であると述べ、「その実現を通じて、魅力と活力にあふれた日本の創造に貢献したい」と結んだ。
引き続き会員懇談会に移りまず、副会長8氏から、当面する国内外の諸課題や日本経団連の取り組み状況について報告があった。次いで、関西地区会員から環境・労働・技術開発問題や規制改革などについての発言があった。
まず、日本経団連からは、片田哲也副会長が、「証券市場の活性化」について報告。片田副会長は、わが国証券市場の活性化のため早急に取り組む課題として (1)潜在的投資家をひきつける市場監視体制の強化②証券決済システム改革の着実な実行による決済の迅速化と決済リスクの低減を図ることなどを挙げた。
「税制抜本改革の推進」については、森下洋一副会長が、日本経団連が先月発表した「税制第3次提言」に基づき報告。「経済界の最大の関心事である法人税については、国際競争に打ち勝つためにも引き下げが不可欠」と強調した。
「社会保障制度をめぐる課題」については、西室泰三副会長が、5月に公表された社会保障負担の将来見通しを基に、「現行制度を前提とした場合、年金・医療・福祉等を併せた負担は現在の82兆円から2025年には180兆円に達する。このため、中長期的に持続可能な社会保障制度を構築する観点から、著しい負担増大が見込まれる公的年金と医療の抜本改革が必要不可欠」とした。
次いで、「規制改革特区構想の推進」について、香西昭夫副会長が報告。「特区」とは、規制改革を早めるため、特定地域に先行的に規制改革を実施し、その成功をもって全国展開するもの。構想は、「民主導の活力あふれる21世紀を切りひらく環境整備として、積極的に推進する必要がある」との考えを示した。
教育関係では、樋口公啓副会長が、「グローバル化時代に対応した教育基盤の整備」に関連し、日本経団連が「インターナショナル・スクール問題」に関する提言をまとめたことを報告。同スクール卒業生の多くが海外の大学に流失していることを挙げ、インターナショナル・スクールを正規の学校に準ずる教育機関として認め、卒業生に対して上級校の受験資格を認めることなどを提言した。
「労働社会分野の改革」については柴田昌治副会長が報告。柴田副会長は、雇用保険制度改革に関する日本経団連の基本姿勢について、(1)雇用保険を失業後、できるかぎり早く再就職させるような制度設計にする (2)保険給付の対象を真に給付が必要な人に絞る必要があるとの考えを示し、「給付見直しを徹底し、一般財源の投入も検討すべきだ。保険料の増加は最後に論ずるべきである」と述べた。
「今後の住宅政策のあり方」に関しては、奥井功副会長が、「住宅は国民の最も重要かつ基盤となる不可欠な資産であり、その取得のための費用である住宅ローン利子は課税所得から控除されて当然である。民間金融機関が住宅ローンに本格的に乗り出してきたことも踏まえ金利の変動による影響を低減させるような措置が必要である。住宅ローン利子所得控除制度の創設は極めて重要な課題である」との認識を示した。
最後に、槙原稔副会長が「WTO新ラウンド交渉」について展望し、「過去数次の自由化交渉で先進国の関税は下がったが、途上国の関税引き下げやそれ以外の自由化が進んでいない。このため途上国は新ラウンドでは自分達の関税が引き下げられるだけで、先進国から得るものが少ないと主張し、新ラウンド交渉に懐疑的で、交渉の行方は予断を許さない状況」と報告。このため「欧米先進国がリーダーシップを取り、自国市場のさらなる自由化を行い、途上国を積極的にWTO交渉に参加させることが重要」と述べた。
一方、関西地区会員からは、競争力強化に関連して井植敏・三洋電機会長が「日本の競争力強化のため国策と産業界の方向が一致する必要がある。今の日本では、中央の政策決定者と現場の間の理解が不十分。その原因はコミュニケーション不足。国家公務員倫理法の弾力的運用などで、コミュニケーションを円滑にすべきだ。政府に働きかけてほしい」との要望があった。
また、古田武・鐘淵化学工業会長は、日本経済再生の方策として大企業のさらなる強化を挙げ、具体的に「産学官の協働により欧米と対抗できるような研究開発体制を作り上げる必要がある」と強調した。
続いて、片山松造・東洋ゴム工業会長は、環境問題を取り上げ「われわれは、地球温暖化防止に向け現在よりさらに詳細で具体的な温暖化ガス排出抑制プログラムを決め、着実に実施すべきである」として、「業界団体の横断的な共同ワーキングをスタートさせてほしい」と求めた。
松下電工の今井清輔会長は、「住環境IT化のためには情報通信関連の規制改革が求められる。併せて、技術開発促進のため産学連携の取り組みが必要である」と説いた。
自由懇談では、秋山喜久関西電力会長が、「国民や企業には閉塞感がある。その原因は、将来ビジョンがないためだ。少子・高齢化の中で今後、どのような産業構造になるのか。国際的に見ると、賃金水準を下げないと競争力は出てこない。こうした中でいかに国民生活を維持していくのか。こうした問題を踏まえ、産学官できちんとしたビジョンをつくるべきである」と提案した。
また、西日本旅客鉄道の南谷昌二郎社長は、「インフラ整備にもビジョンが必要」として、「関西国際空港整備も方針に沿い、一気呵成に進めるべきである」と述べた。松下電器産業の松下正幸副会長は、インターナショナル・スクール問題に関する提言について、「国際化が進むなか、早期実現をめざしてほしい」と賛意を示した。
懇談ののち、奥田会長は、(1)技術開発や新産業の育成については、「動け!日本」をテーマに内閣府で各界のヒアリングを進めている。尾身幸次科学技術担当大臣も力を入れている。成果を期待している (2)今後、日本の内需拡大は住宅に負うところが大きい。日本経団連でも新たに住宅委員会を設けた。内需拡大の期待をこめて検討したいなどと総括した。