経営タイムス No.2642 (2002年8月22日)

14年春季労使交渉、日本経団連がトップ・マネジメント調査

−雇用問題で論議、前年より倍増/今後の賃金決定のあり方「定昇制度見直し」急増


 日本経団連は21日、「平成14年春季労使交渉に関するトップ・マネジメントのアンケート調査結果概要」を発表した。同調査は昭和44年から実施しているもので今年、34回目となる。今年の特徴としては、(1)今次春季労使交渉の場で雇用問題がとりあげられた企業が、前年の2倍以上に一気に増加した (2)今後の賃金決定のあり方として、ベア方式をとるべきとする企業が少数になる一方で、定昇制度自体を見直すべきと考える企業が急激に増えた――などが挙げられる。調査結果の概要は次のとおり。

<調査概要>

 この調査は今年5月、旧日経連常任・財務理事会社および東京経営者協会会員会社1966社を対象に、今次春季労使交渉について企業トップ層の考え方を調査したもので、275社から回答を得た(回収率14.0%)。

<賃上げに対する評価>

 今次春季労使交渉における賃上げの妥結結果の水準は、前年に比べて一段と低下した。妥結した賃上げ率の分布を前年と比較すると、分布のピークは前年に2%台前半であったものが、今年は1%台後半となり、賃上げ率2%未満の企業が7割を超えている。また、「ベアを実施」は1割にも満たず、「定昇のみ」が最も多くて約7割、「定昇の凍結」や「賃金額の据え置き」が合わせて約1割、「降給を実施」もわずかながらあった。
 この妥結結果との関連として、賃上げによる人件費増加等が企業経営に及ぼす影響について質問したところ、「人件費負担は限界」と「人件費負担は重い」とを合わせた“影響が大きい”とする企業が依然として6割強を占めており、ベアを実施していない企業が大半であったにもかかわらず、前年と状況がほとんど変わっていない。

<賃金決定にあたり何を考慮したか>

 今年の賃金決定にあたり考慮した要素としては、「経営状態(生産性および支払能力の動向)」が91.1%と圧倒的に多く、3年ぶりに9割を超えた。次に「雇用の維持」(30.0%)、「世間相場」(28.0%)、「労使関係の安定」(22.9%)などが続く。
 今年は特に、「雇用の維持」が前年調査結果(15.3%)の約2倍になっており、考慮した要素の4位から一気に2位に上がっている。

<今後の賃金決定のあり方>

図表(1) 今後の賃金決定のあり方について  今後の賃金決定のあり方については、「定昇制度を見直し、降給も導入すべき」が最も多く、37.6%となった。この項目は2年前の調査から設けられた項目であり、毎年約10ポイントずつ増加し、今回初めて1位となった(図表(1)参照)。
 また、「定昇のみとし、余裕があれば賞与に反映させていくべき」(33.2%)、「定昇を中心に行うべきで、ベアは毎年行う必要はない」(10.2%)、「定昇+ベア方式をとるが、定昇を中心とすべき」(4.4%)とする、定昇中心あるいは定昇のみの広い意味でのいわゆる “ベア不要論”をとる企業も47.8%ある。
 このように、ベア方式をとるべきとする企業が少数になる一方で、降給の導入など定昇制度自体を見直すべきと考える企業が急激に増えている。

<雇用問題>

図表(2) 労使交渉の場で雇用問題がとりあげられた企業の割合とその対処の仕方  企業が自社の雇用の過不足状況についてどう判断しているかをみると、「雇用余剰と人手(人材)不足の両面がある」とした企業が68.9%と最も多く、前年に比べて4.6ポイント減少したが、依然として高い水準にある。次いで「雇用余剰」が17.8%あり、同2.4ポイント増加している。雇用余剰だけを指摘する企業が再び増加に転ずるとともに、企業内の人材のミスマッチも、相変わらず深刻であることがうかがえる。
 このような中、今次春季労使交渉の場で「雇用問題がとりあげられた」とする企業は39.1%となり、前年と比べると、一気に2倍以上に増加している(図表(2)参照)。
 また、その対応をみると、「賃上げをある程度抑えて、将来に向けて従業員の雇用確保を優先させた」が最も多く、雇用問題がとりあげられた企業の45.2%、回答企業全体でも17.7%に及んでいる。
 さらに、今年新設の項目「雇用維持に関する申し合わせ等を行った」が続き、雇用問題がとりあげられた企業の20.2%(回答企業全体で7.9%)となっている。

緊急対応型ワークシェア、約1割が検討を予定

<ワークシェアリング>(参考調査)

 今年は参考調査として、ワークシェアリングに関する質問をとりあげた。
 今次春季労使交渉で緊急対応型ワークシェアリング(注1)が「とりあげられた」企業は4.5%で、実際に「その実施を決めた」が1.1%、「検討中」は0.7%、「検討の結果実施しなかった」が1.9%であった。しかし、今後業績が悪化した場合に、緊急対応型ワークシェアリングの導入を検討するかについては、10.1%の企業が検討を予定しているとし、「その他」の項目に回答があった「状況により検討を行う」なども含めると、15%超の企業が検討について前向きに考えている。
 また、中・長期的な観点から、労働力供給の減少、就労ニーズの多様化に対応し、企業活力を向上させる施策として、多様就業型ワークシェアリング(注2)を今後の課題として検討する予定があるかどうかについては、14.5%の企業が「予定がある」としている。さらに、「その他」の項目に回答があった「状況により検討を行う」や既に「検討中」、「検討の余地あり」などを含めると、2割を超える企業が何らかの検討を考えている。

注1:
緊急対応型ワークシェアリングとは、緊急的に労働時間を短縮し、それに伴う賃金縮減により、当面 雇用を維持するよう努めること。
注2:
多様就業型ワークシェアリングとは、労働時間短縮等の措置を講じることにより、中・長期的な観点から従業員に対して多様な就業形態メニューを提供すること(賃金縮減を伴うのが通例である)。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 調査結果等に関する問い合わせは、日本経団連労働政策本部企画調査グループ(電話03―3213―4486)まで。調査結果の詳細をとりまとめた報告書は9月上旬から頒布予定。


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