経営タイムス No.2643 (2002年8月29日)

わが国経済の現状と課題

−安定成長軌道へのベスト処方箋/土地・証券活性化へ向け強力な減税の断行を

UFJ総合研究所
シニア・フェロー
原田和明

 わが国の景気は、今年1月に大底をつけた後、回復基調に転じた。

 しかし、8月の政府月例報告では、「景気は一部に持ち直しの動きが見られるものの、一方で、世界的なドル安が国際経済の先行き不透明感を強めており、わが国の最終需要が下押しされる懸念あり」と指摘している。

 確かに今春には、米国経済が緩やかな回復基調に転じたことを受けて、国際経済全般が明るさを増した。わが国景気も輸出の伸長とこれにかかわる生産活動の活発化、在庫調整の進展などによって、金融面を除いた実物経済では、緩やかな回復基調となった。

 ところが、7月下旬にはNYダウが一時7700ドル台まで下落し、乱高下する事態が生じ、国際経済全般に先行き不透明感が急速に強まったのである。

 そこで、まず米国経済を展望、これを背景として、わが国経済の展望と課題を検討してみよう。

【米国経済】

 従来、米国において景気回復の初期に今回のような株価底割れが生じたのは異例である。その主因は、(1)外的要因―つまり昨年9月の大規模テロの再発不安のほか、パレスチナ情勢、米国のイラク進攻の可能性といった不透明要因 (2)ハイテク分野を中心とした企業収益の相次ぐ下方修正、加えて (3)エンロンをはじめとする米国企業の不正会計の問題――などが、相乗的なネガティブ要因となって株価の予想以上の下落をもたらした点にある。

 なかでも、私見では(3)の影響が大であったと思う。

 株価下落は、比較的堅調であった個人消費に逆資産効果をもたらす。先行き悲観論の多くは、再び台頭してきた“双子の赤字”、つまり5年ぶりの財政赤字と急増した貿易赤字と相まって、米国景気が長期低迷に陥るのではないか、とみている。

 確かに、数カ月前の明るい展望と対比すれば、米国の先行きに不透明感が増していることは否めない。しかし、そのマイナスの影響は比較的軽いと思う。

 その理由の第一は、企業会計の実態は懸念されたほど腐敗していないと判断されたことである。この結果、米企業システムへの内外投資家の不信感は一応峠を越した。第二は、イラク進攻などの“外部要因”はいぜん予断を許さないが、ハイテク分野の業績がさらに悪化する懸念は小さい。第三は、株価下落の逆資産効果は、住宅価格の堅調により、かなり相殺され、比較的軽微と見られる、などである。

 したがって、米国景気のメーンシナリオとしては、私は“企業会計システム不信は峠を越し、株価は次第に回復に転じる。逆資産効果も小幅にとどまり、二番底に落ち込む可能性は小さい”とみる。

【日本経済】

 では、わが国経済はどうか。政府のデフレ脱却への姿勢は、なお十分ではないが、新年度予算に関しては、“多年度の均衡をめざす、減税先行型”の基本方針を固めたことは妥当であり、また、新年度からのペイオフ完全実施についても、改善策がとられる見通しとなったことは評価できる。米国経済が、長期低迷に陥ることがなければ、日本の成長率は2002年度・03年度とも0.5―1.0%程度の緩やかなプラス成長は期待できよう。

 しかし、留意すべき最大の課題は、金融システム、とくに不良債権の最終処理にある。私見では、これがスムーズに進展しなければ、構造改革の進展、景気回復軌道への復帰も至難であると思う。不良債権の処理をスムーズに成功させる必要条件は、資産デフレからの脱却である。新年度の税制において、投資減税などとともに、土地・証券の活性化につながる強力な減税を断行することが、わが国経済を減税先行の3年間という限られた期間に、安定成長軌道に乗せるベストの舵取りだと考える。


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