経営タイムス No.2644 (2002年9月5日)

「日韓政労使6者会談」開く

−奥田日本経団連会長らが参加/高齢者雇用促進などで意見交換


韓国の政労使訪日団と日本の政労使による「日韓政労使6者会談」が8月29日、厚生労働省で行われた。韓国からは、方ヨン錫(パン・ヨンスク)韓国労働部長官、李南淳(リー・ナムスン)韓国労総委員長、金昌星(キム・チャンスン)韓国経総会長らが来日。日本側から、坂口力厚生労働大臣、笹森清連合会長、奥田碩日本経団連会長らが参加し、「高年齢者の雇用促進」「IT関連能力開発政策」について会談した。

坂口大臣は、訪日団に対し、歓迎の意を表すとともに、アジアにおける日韓2国間の協力の重要性を強調。この日の会談を契機に、より緊密な協力、交流をしていきたいと述べた。
笹森会長は、この会談が両国の国民、労働者にとって有益な話し合いとなるよう期待すると語った。
奥田会長は「多方面で交流が進んでおり、文字通り『近くて近い国』になってきた」と、最近の日韓関係を評価。今年、日韓共同で行われたFIFAワールドカップにも触れ、「両国国民がお互いのチームを応援するという姿が見られ、身近になる中で政労使3者の交流も一層深まることを期待している」と述べた。
方長官は、「両国共通の懸案を話し合うことは大変貴重。特に今年はワールドカップが開催され、両国間の親善が進んだ中でこの会談が開かれたことは有益である」と、両国間の関係の深化に期待を寄せた。
李委員長は「ソウルから日本までわずか2時間で本当に“近い国”である。さらに、見た目の類似性も実感した」と、訪日の感想を披露。また、グローバル経済に鑑み、隣国だけでなく地域協力の必要性を強調した。
金会長は、「真摯な議論、虚心坦懐な意見を期待したい」と述べた上で、特に日本経団連とは引き続き交流を深めていきたいとして、一層の交流を呼びかけた。
会談での発言要旨は次のとおり。

高年齢者の雇用促進

(坂口大臣)
高齢労働者の活用のため、(1)65歳までの雇用の確保 (2)再就職支援 (3)臨時的・短期的な就業のあっせんや高齢者による自営開業の支援――の3つの施策を中心に支援。高齢者が長年の経験・技能を活かして活躍できる社会の実現に向けて努力する。

(奥田会長)
高齢者活用の必要性は企業でも認識しているが、厳しい雇用情勢下では、若年層へのしわ寄せの可能性もあり、雇用の総量を増す全体的な取り組みが必要。個別労使間の十分な話し合いにより、各企業に適した方策の導入を進めるべきである。年齢や性など属人的な要素を払拭し、個々人の能力による「多様性の人材マネジメント」の構築が必要である。

(笹森会長)
公的年金の支給開始年齢の段階的引き上げにより、雇用と年金とにすき間が生じる。雇用と年金を接続させることが最大の課題。労働組合も社会改革に向けての制度変更はしなければならないとの認識をもっている。さまざまなルール、システムをどうするか、「21世紀型の生き方・暮らし方」を考えることが必要である。

(方長官)
高齢化の進展は生産人口の減少と経済成長の鈍化だけでなく、若年層の負担増の問題もはらんでいる。韓国より先に高齢化を経験し対応している日本の経験を活かしたい。

(金会長)
韓国は高齢化が、欧米諸国よりも早く進展した日本よりさらに早いと予測されている。韓国は年功賃金による「高齢者=高賃金」の考え方があり、高齢者の雇用を阻害している。高齢者の高賃金と強い解雇規制が問題であり、規制緩和を求めたい。

(李委員長)
高齢化の進展による労働力人口への影響を懸念。雇用対策は切実な問題で、特に、定年と採用における年齢差別の法制化の撤廃を要望している。

IT関連能力開発政策

(方長官)
失業者にはパソコン養成教育、労働者には、職務能力を伸ばすべくインターネットを通じた講習、零細企業には、デジタルデバイドの訓練などを実施している。今後は、より高度な専門講師の養成に支援を集中する計画である。

(李委員長)
企業はITの必要性を感じているが、資金的・時間的補助が足りない。特に政府のIT関連教育は失業者向けで、労働者に対して十分ではない。ITの委託教育、インターネット教育を充実させるべき。

(金会長)
IT関連の人材は不足している。経済危機後、再就職先としてIT産業への就職率が高まったが、いまは違う。ITは技術スピードが非常に早く、政府の支援も必要であるが、IT関連の訓練内容は企業に一任する方策が求められる。

(坂口大臣)
基礎知識や技能を業務に応用する能力が求められ、高度な人材の養成も課題。このため、(1)国や自治体などが運用する機関を活用し多様な訓練を展開 (2)先導的な教育訓練コースの開発を国の中核的な能力開発施設で実施 (3)大学、大学院などにおける高度かつ実践的なIT教育環境の整備――を行っている。今後はITを活用して新しい産業を創造することに力点を置くべきである。

(笹森会長)
ITに関連する労働者全体に能力開発が行われる必要がある。中小企業では人材不足で計画的な訓練ができない。政府や自治体による訓練は必ずしも満足のいくものではない。中期的な発展を考えて、企業、社会レベルで人材を育成する必要がある。

(奥田会長)
企業のIT化は、従業員がそれを活用して初めて効果がある。そのための能力開発が重要。個別企業では限度があり国全体による総合的な取り組みが必要である。IT化は雇用削減の可能性があるが、新たな雇用も期待できる。諸施策や規制撤廃などを総合的に推進し、IT関連の良好な雇用機会の確保を図ることが重要である。

会談の最後に坂口大臣は、「共通の課題を抱えていると改めて認識した。引き続き、両国で交流していきたい」と、日韓政労使交流の継続を提案。方長官はこれに同意し、来年は実務者レベル、再来年は今回同様トップレベルでの会談を実施したいと応えた。


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