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経営タイムス No.2661 (2003年1月30日)

日本経団連労使フォーラム
経営労働政策委員会委員パネル討論
「経営側の基本姿勢」


日本経団連が15、16の両日開いた労使フォーラム(前号既報)2日目、今次春季労使交渉における経営側の基本姿勢を示した「経営労働政策委員会報告」(1月1日号既報)をもとに、同報告をまとめた経営労働政策委員会委員がパネル討論を行うとともに、経営側、労働側もそれぞれ今次交渉の具体的対応や考え方などについて討議した。また、大会最後には、神野直彦・東京大学大学院教授の特別講演「日本の明日を創る」を聴取した。

<パネリスト>
日本ガイシ会長/柴田昌治氏
全日本空輸最高顧問/普勝清治氏
日本電信電話社長/和田紀夫氏

<コーディネーター>
中央大学教授/古郡鞆子氏

1.経済・経営の環境変化

技術開発で国際競争力回復

 柴田委員長
経労委報告の序文で、わが国の経営環境の変化が構造的なものであることを指摘している。こうした変化の中で一番深刻な問題は、国際競争力の大幅な低下だ。
しかし、研究・技術開発の分野ではまだまだ評価が高い。国際競争力をどう回復するか、あるいは厳しい経営環境からいかに回復していくか、切り口は研究・技術開発にあるのではないか。
国際競争力の点で、空港一つとっても、日本は世界第2位の経済大国でありながら、ハブ機能のある国際空港がない。港も同様だ。日本を本当に国際競争力のある国にするため、あらゆるシステムを見直す時期にきている。

 普勝委員
企業経営を取り巻く環境の変化については、だれもが共通の認識をもっている。一番大きな問題は、製造業の生産拠点が海外、特に中国にシフトし、この状況がまだ続くことにある。

 和田委員
情報・流通業では、事業領域を超えさまざまな業種が競争に参入し、価格競争に集中している。しかし、価格競争だけではサービス力も商品力も、需要も雇用も生まれない。
国際競争力が失われているが、研究開発はたしかに上位にある。しかし、国際競争に勝つためには研究の成果ではなく、技術的優位性を持ったサービスなり事業ができてこなければならない。

2.雇用・賃金問題への対応

 柴田委員長
日本の雇用を増大させるためには、新製品開発と新事業の創出があるが、もう一つ、外国の企業を日本に誘致することも考えるべきだ。アメリカも産業再生のために、海外企業誘致を徹底して行い、大きな成功を収めた。異質の人材を入れ、同質社会から脱皮し、日本の活性化を図るために、外国企業の誘致を真剣に考えなければならない。

 普勝委員
雇用の吸収策として新規産業の創出や新たな技術開発が言われるが、現実には何百万人もの失業者を吸収できる産業はすぐにはできない。製造業で出た失業は、サービス業で吸収するしかない。サービス産業ががんばって、雇用吸収能力を高めていく必要がある。
賃金については、報告書にもあるように、年功賃金から成果主義賃金に早く転換すべきだ。生産量が減っていく中で利益を上げようとしても、固定費、特に人件費にしばられコストが落ちない。これからは、人件費の一部を固定費から変動費に変えていくことも考えなければならない。

可能な限り社員に選択肢を

 和田委員
NTTグループでも、雇用問題に手をつけざるを得ない状況に直面し、改革を実施した。その場合にも、従業員を大事にする、雇用は守りたいとの考えがなければ会社は致命傷を受けることになる。雇用に手をつけようとする場合は、社員が納得するまで説明する義務がある。さらに、経営側として可能な限り社員に選択肢を提供するべきだ。その意味で、昨年12月の雇用問題に関する政労使合意は意義があると思っている。
日本は少子・高齢化が避けられない状況にあるが、労働力に関して、外国人労働者による解決という道もあるだろうが、減少はしても国内労働力の有効活用が先決だと考える。これからは、情報流通のブロードバンド化が進み、情報量あたりのコストが非常に安くなる。これを活用して雇用のミスマッチを解決していくこともできる。

3.今次労使交渉と労使関係

 柴田委員長
経営側の姿勢についてマスコミ論調は「賃下げ」としているが、報告書では「賃金の引き下げに迫られる企業も数多い」と状況認識を述べ、個別企業の支払能力にあった判断を求めている。報告書を作成するにあたって、各地の経営者協会の意見も聴取したが、地方の中小企業はいつ倒産してもおかしくない状況にある。むしろ賃下げを強調してほしいという意見もあったほどだ。良好な労使関係を保つためには、能力と貢献度に応じた処遇が必要だ。ただし、会社に対するロイヤルティーも考慮すべきで、問答無用で切り捨てるような施策は取るべきではない。日本でも、社長より報酬の高い社員が出ても当然だという考えで、人材の処遇を考え直さなければならない。

賃金の多寡でない信頼関係

 普勝委員
労使関係の良し悪しは、賃金の高低に左右されない。経営者に公正や信義を守るという姿勢があって初めて、信頼関係が生まれる。賃金の多寡ではないと思う。従業員につらいことを言わざるを得ない場面もあるが、経営側に、従業員に対する愛情と信念があれば理解される。

 和田委員
厳しい状況の中で、賃金水準を一律底上げするという賃上げは考えられないが、社員は、活力を引き出す仕組みのある企業に魅力を感じるわけだから、魅力ある処遇体系作りを怠るわけにはいかない。その場合、貢献度に応じた処遇をしなければ、社員の企業離れが起きる。資本効率や利益を重視することは企業経営者として当然だが、同時に労働組合を大事にしていかなければならない。人間尊重の観点で長期的に取り組めば、それぞれの利益は折り合いがついてくる。企業を持続的に成長させていくためには、こういった視点が大事だ。

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