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経営タイムス No.2691 (2003年9月11日)

独禁法の措置体系見直しを

−日本経団連が意見書発表


日本経団連は5日、独占禁止法違反事件に対する制裁・処罰のあり方などについて経済界の意見をとりまとめた「独占禁止法の措置体系見直しについて」と題する意見書を発表し、関係官庁等に働きかけることとした。

日本の独禁法は違反カルテルに対して、刑事罰と行政措置である課徴金を重ねて課すという国際的に異例の体系である。
このことに対して日本経団連ではかねてから、刑事罰と課徴金のほか、損害賠償請求、行政当局による指名停止など、ばらばらに行われている制裁・処分の抑止効果を総合的に評価し、全体として違反行為の実態と均衡のとれた制裁とする必要を指摘してきた。
昨年の独禁法改正で、法人への罰金の上限が1億円から5億円に引き上げられた際に、「課徴金、刑事罰、公取委の調査権限のあり方を含め、措置体系全体について早急に見直す」との国会附帯決議がなされたのを契機に、公正取引委員会では措置体系のあり方について検討を進めている。

しかし、これまでの検討内容は、抜本的見直しを棚上げにしたまま、課徴金の引き上げや、悪質な違反事業者に対する加算、違反行為を自ら申し出た事業者に対する減免制度を導入する方向を示しており、「カルテルによる不当利得の剥奪」であり制裁ではないとされている課徴金の目的を逸脱し、刑事罰との関係が考慮されていないものとなっている。
そこで日本経団連では、早急に経済界の意見を公表し、独禁法の措置体系の抜本的見直しを求めていく必要があると考え、同意見書をとりまとめた。同意見書では、独禁法の厳正かつ適正な執行のための法的・人的・組織的体制整備は喫緊の課題であることを前提とした上で、具体的な改革の方向性として、次の点を提言している。

  1. 課徴金に加算、減免制度を導入するならば、刑事罰との二重処罰、罪刑の均衡という憲法問題すら生じかねない。法人への経済的制裁のあり方について、刑事罰との調整、デュー・プロセスの確保を図った上で、将来的にはEU型「制裁金」に改めるか、刑事罰への一本化を図ることをも含め、幅広く検討すべきである。
  2. 行政調査である公取委の立入検査が、裁判所の令状に基づく捜索・押収であるかのように行われており、デュー・プロセスからも問題である。立入検査の権限の制約について啓発に努め、調査開始時には権限範囲が明確に告知されるべきである。
    加えて、公取委の証拠収集能力・体制が不十分であるため、悪質・重大な事案の刑事告発がなされておらず、公正取引委員会の調査体制の質的な整備、強化が必要である。
  3. 公取委が行う審判は、通常の裁判の一審に代替するものでありながら、判事に相当する審判官、検事に相当する審査官の双方を公取委の職員が務めている。審判官、審査官ともに資格要件も研修義務もなく、法曹資格者も少数であり、準司法機関の人員構成としては不十分である。
    当面の改革の方向として、審判官と審査官との間の人事上のファイアー・ウォールを強化し、できる限り法曹資格者をもって充てるべきである。
  4. 指名停止など独禁法以外の制裁効果をも総合的に評価し、制裁措置を設計する必要がある。
    また、指名停止は審判確定後に違反対象の市場に限定して行うよう、公取委からも関係各機関に働きかけるべきである。
◇ ◇ ◇

独占禁止法は違反行為のうち、価格・数量カルテル、入札談合に対する制裁(措置体系)として、排除措置、刑事罰、課徴金を重畳的に課し、損害賠償請求については無過失賠償責任を定めている。
違法カルテルに対する法人への経済的制裁は、EUでは100万ユーロ以下または売上高10%以下の制裁金が行政措置として課せられ、争いがある場合には裁判所が判断する。アメリカでは、刑事事件としての調査、違法性判断がなされ、1000万ドル以下の罰金刑が定められている。行政処置である課徴金と刑事罰を並科する日本の独禁法は世界でも異質である。


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