日本経団連タイムス No.2728 (2004年7月1日)

日本経団連貿易投資委員会WTOミッション報告

−新ラウンド交渉進展へ成果


日本経団連の貿易投資委員会(秋草直之共同委員長、佐々木幹夫共同委員長)は、6月1〜8日の日程で、WTO新ラウンド交渉の再活性化を促すとともに、日本経済界の交渉に関する要望の実現を目的に、ミッションを派遣した。同ミッションは、團野廣一・貿易投資委員会総合政策部会長を団長に、企業の実務担当者ら21名が参加。スイス・ジュネーブ、ベルギー・ブラッセル、米国・ワシントンDCを訪問した。同ミッションの概要は次のとおり。

派遣の背景と目的

WTO(世界貿易機関)は2001年11月に新ラウンド交渉(ドーハ開発アジェンダ)を立ち上げ、ジュネーブのWTO本部を中心に交渉を進めている。WTOでは現在、農業および非農産品市場アクセスに関する交渉の枠組みをはじめ、加盟国間の意見の相違が大きい主要分野を中心とした交渉進展に向けた枠組み合意(7月合意)をめざし、精力的な交渉を行っている。

日本経団連は、日本の経済界の意見をWTO交渉に反映させるべく、2000年から毎年、原則として秋口に、ジュネーブ等にミッションを派遣してきたが、今年は合意内容が固まる前の6月初旬にジュネーブを訪問することとした。

7月合意に向けた新ラウンド交渉の動向

今年後半には、米国で大統領選挙、欧州で欧州委員会委員の交代が予定されており、8月以降は当分の間、実質的な交渉の進展は期待できない。このため、WTO新ラウンド交渉のモメンタムを維持するためには、7月合意が不可欠であるとの認識が、各訪問先で強く示された。
一方、7月合意が結実する可能性について、ジュネーブで直接交渉に携わる各国政府代表やWTO事務局関係者の間では、やや楽観的な見通しも示されたが、より客観的に交渉の行方を注視している、ブラッセルやワシントンDCの担当者からは慎重な意見も聞かれるなど、予断を許さない状況にある。
7月合意に含まれる分野は、いまだ確定していないものの、農業・非農産品市場アクセス、サービス、シンガポールイシュー(※1)、開発問題・綿花(※2)が中心になるとの見方があった。

7月合意における最大の焦点は、農業である。途上国の農業交渉に対する関心は非常に高い。農産物市場の自由化などに向けた一定の合意なくして、非農産品市場アクセスの改善やサービス貿易の自由化など、日本の経済界が期待する交渉の進展はないということが、今回の訪問における一連の会合を通じて確認された。
もう一つの大きな課題である開発問題については、交渉の成果を途上国も十分享受できるよう加盟国が協力することで、交渉に対する途上国の積極的な参加を促していくことが極めて重要であるとの意見が出された。
また、シンガポールイシューにおいて、日本の経済界が重要視してきた投資については、残念ながら早期の交渉化は困難な状況にある一方、投資と同様にプライオリティの高い貿易円滑化については、途上国の反対が比較的少ないことから、交渉化が期待されている。

経済界の連携強化に向けた取り組み

ブラッセルおよびワシントンDCでは、政府機関を訪問するとともに、UNICE(欧州産業連盟)、ESF(欧州サービス産業連盟)、NAM(全米製造業協会)、BRT(ビジネスラウンドテーブル)、CSI(米国サービス産業連盟)等、欧米の経済団体との意見交換にも努めた。
懇談を通じて、新ラウンド交渉に対する立場について、欧米の経済団体とは大きな相違はないことを確認。特に日本の経済界が、交渉の再活性化を重視する観点から、投資について柔軟性を示したことを歓迎する意見が相次いだ。さらに、WTO新ラウンド交渉の進展に向けて今後も協力し合うことや、そのための情報・意見交換を継続することを確認した。

日本の経済界への期待

今回の訪問では、訪問先で積極的に質問が出されるなど、日本の経済界の立場に対する関心が極めて高いことを実感するとともに、日本経団連が新ラウンド交渉の推進を強く支持していることに対して高い評価が得られた。7月合意の実現、さらには新ラウンド交渉の早期妥結に向けて、多角的自由貿易体制の確立に貢献をしてきた日本の経済界への期待の声も多く聞かれた。また、日本は新ラウンド交渉の結果、多くの利益を受けるはずであることから、経済界として、交渉進展の重要性とリーダーシップの発揮を、より積極的に政府に訴えて欲しいとの要望もあった。
WTOによる多角的アプローチは国際通商システムの根幹であり、新ラウンド交渉の成功は、先進国、途上国を問わず、貿易の活性化を通じて世界経済の発展に大きく寄与する。そのために各国は、昨年9月にメキシコで開催されたカンクン閣僚会議の経験を活かしながら、交渉の再活性化に向けた工夫と努力を継続する必要がある。
そこで日本経団連としても、今回の訪問の成果を活用しながら、関係各方面に対する交渉推進の働きかけを今後一層強めていきたい。

◇ ◇ ◇
※1 シンガポールイシュー
貿易と投資、貿易と競争、貿易円滑化、政府調達の透明性の4項目。1996年のシンガポール閣僚会議で検討を開始。
※2 開発問題・綿花
綿花を生産する西アフリカの後発開発途上国が、先進国に対綿花補助金の撤廃と金銭補償を求めている問題。
【国際経済本部貿易投資担当】
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