日本経団連タイムス No.2741 (2004年10月7日)

若者に「ものづくり魂」を/新発見・発明を可能にする「感性」「倫理観」醸成

−日本経団連理事会、野村東太・ものつくり大学学長が講演


日本経団連は9月21日、東京・大手町の経団連会館で開催した理事会に、ものつくり大学の野村東太学長を来賓として招いた。野村学長は、講演の中で、若者の働くことへの意識や、ものつくり大学が進めている人材育成の重要性を強調し、経済界の同大学に対する一層の理解と支援を求めた。野村学長の講演要旨は次のとおり。

今の若者は、われわれ大人の目には「無気力・無関心・無感動」な存在に見える。
しかし、今の若者は、職業生活について、今までのように、私生活を犠牲にしてまで働くことに疑問を抱き、自己実現や自己目標の達成の場を提供できない企業には納得せず、退職後の従来型老後にも疑問を感じている。つまり、既成社会に対する閉塞感だけでなく、不透明な未来への不安を強く感じている。このため、若者は大志を抱いて働くことができないでいるものと思われる。
言い換えれば、今の若者は、これまで当たり前と思われてきた「学校で必死に勉強し、会社に就職して出世をめざす、そして結婚して次世代の子どもを育てる」という今までの人生や社会のあり方そのものに、疑問を抱いているのである。
ものつくり大学では、若者が未来への希望を自ら描け、そして働ける状況を、「ものづくり教育」を通して実現したいと考えている。

ものに触れる感動からスタート

今の若者の多くは、もの溢れ時代に育ちながら、身近にものづくりの現場がなく、ものを自らつくった経験も、したがって、ものづくりに感動したこともない。ものづくりはすべて他人事なのである。また、職場での仕事の進め方にしても、昔に比べて、分業体制が徹底しているため、一人ひとりの目に仕事の全体像が見えない。そのために、自分のつくったものが何に使われているのかもわからず、自ら仕事の使命感や達成感を得ることが難しい。こうしたことも、若者がものづくり離れを起こす原因となっている。
そこで、ものつくり大学における教育は、まず、ものに触れて感動するという、ものづくりの原点からスタートすることにしている。現場で、現実に、現物に触れ、ものの命を感じ取ることから始めて、ものづくりの全体の流れを感動をもって体験する。こうして磨かれた「ものづくり魂」を通して、新しい発見や発明を可能にする「感性」や「倫理観」を学生は具えることになる。そこには創り手の命と責任が吹き込まれている。さらに、科学技術知識教育とマネジメント能力教育を加えることで、明日の日本のものづくりを担う総合テクノロジストが養成される。これが、ものつくり大学のめざす人材育成である。

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ものつくり大学(埼玉・行田市)は、豊田章一郎会長(日本経団連名誉会長)と梅原猛総長(哲学者)を頂点に、「ものつくりの明日を担う人材の育成」をめざして、2001年4月に開学した。製造系と建設系の2学科があり、教員は7割が企業出身者で長期間(正味4〜6カ月)のインターンシップを取り入れるなど、ほかの大学とは異なったカリキュラムに基づく教育を大胆に進めている。第1期生は、2005年3月に卒業する。

【総務本部総務担当】
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