日本経団連タイムス No.2742 (2004年10月14日)

企業倫理トップセミナー開く/会員企業から約420名が参加

−トップの役割を再確認/奥田会長、企業活動の点検求める


日本経団連(奥田碩会長)は5日、東京・大手町の経団連会館で、第3回企業倫理トップセミナーを開催した。日本経団連は毎年10月を「企業倫理月間」と定め、会員各社が企業倫理の徹底・浸透に向けて具体的な活動に取り組むよう呼びかけており、同トップセミナーは、その主要行事のひとつ。今回のトップセミナーには会員企業のトップや役員ら、約420名が出席し、事例報告やパネル討議などを通じて、企業倫理の浸透・徹底のために企業トップが果たすべき役割をあらためて確認した。

冒頭にあいさつした奥田会長はまず、製造や営業、輸送や保守管理など、現場でのトラブルやミスが発展して企業不祥事となる事例が最近増えていると指摘。その上で、「現場でいま何が起きているかを企業トップが十分把握していないことが、現場のトラブルやミスを引き起こしている」との考えを示し、社内の隅々に至るまで、企業活動を再点検するよう企業トップに求めた。
さらに奥田会長は、企業を見る社会の目が、一層厳しくなっている今日、社会を揺るがすような不祥事を起こせば、「その企業が存続の危機に直面するだけでなく、経済界への信頼も一気に低下する」との懸念を表し、会員企業が企業倫理問題についての危機感を共有すべきであると語った。

続いて、三菱自動車工業の古川洽次副会長が、同社の直面している問題について報告した。この中で古川副会長は、同社で発生した不祥事の原因の背景には、(1)プランを作るだけでDOやSEE(促進やチェック)が不十分 (2)製品の不具合情報に対する感度の鈍さ (3)「内輪の論理」重視 (4)社内組織間のコミュニケーション不足――など、企業風土の問題があると述べた。
その上で古川副会長は、同社が企業倫理の徹底・浸透をめざし、モニタリングとコミュニケーション機能の維持・強化を図るための「CSR推進本部」や、社外の人間で構成し、CSR推進本部を指導・助言する「企業倫理委員会」を新設するなどの体制整備を行い、「コンプライアンス(法令順守)第一」「安全第一」「お客様第一」という3つのアクションを具体的に講じていくとの決意を示した。

企業倫理確立などでパネル討議

パネル討議では、武田國男副会長・企業行動委員長の司会で、三菱自動車工業の古川副会長のほか、雪印乳業の日和佐信子取締役、中島経営法律事務所代表の中島茂弁護士をパネリストに、最近の企業不祥事をどう考えるか、企業倫理の確立にどう取り組むべきかを議論した。

このうち、最近の企業不祥事について日和佐取締役は、長い間許容されてきた商習慣や業界の常識が、いまの社会では非常識やルール違反とみなされるケースが多くなっていると指摘するとともに、雇用の多様化による非正社員の増加が事実上、経営情報の全面公開に等しい状況を生み、内部告発が増加しているのではないかと述べ、だれからみても納得できる経営を行うことが重要であると訴えた。

また、中島弁護士は、1962年にアメリカのケネディ大統領が教書で示した消費者の4つの権利((1)安全の権利 (2)知る権利 (3)選択できる権利 (4)意見を述べる権利)を挙げ、「今日の企業不祥事は、この4つの権利が順次確保されていく途上で起きている」との見解を示した。その上で中島弁護士は、コンプライアンスを法令順守とだけ翻訳すると、「法令さえ守ればよい」「法令がなければ何をやってもよい」という誤った傾向が生まれ、これが不祥事につながるとして、「コンプライアンスとは、相手の期待に対して親切に応えることであり、これを原点に企業倫理を確立すべきだ」と呼びかけた。
続いて、企業倫理の確立にどう取り組むべきかについて中島弁護士は、コンプライアンス確立や消費者第一主義に、企業トップが本心から取り組む姿勢が最も重要と指摘するとともに、不祥事発生後は、外部の専門家による徹底的な原因究明が必要であると語った。

日和佐取締役も、企業トップの意識の重要性を強調するとともに、わかりやすいガイドラインの策定や、全社員を対象としたアンケートの実施、部署ごとの行動リーダーの設置、ケーススタディの実施、グループ企業との協同実施などの施策によって、全社・全グループにコンプライアンス意識を浸透させていくことが必要であると述べた。

古川副会長からは、(1)コンプライアンスは経営の本流とは別にあるのではなく、経営の基本にあるということを認識すべき (2)人望のある人間をコンプライアンス担当者に据えるべき (3)日々の努力を重ねることが重要――との発言があった。

最後に閉会あいさつを行った大歳卓麻・企業行動委員会共同委員長は、利便性を追求するだけでなく、自然や人間に優しい社会のあり方を基本に置いた上で、(1)製品などに不具合が生じた場合に社員が事実を共有して原因を究明していく仕組みをつくること (2)社員一人ひとりが高い志をもって、自己や企業の浄化作用が働くようにすること――が、企業トップの役割であると結んだ。

【社会本部企業倫理担当】
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