日本経団連タイムス No.2742 (2004年10月14日)

新産業・新事業委が企画部会開く

−スピンオフによる技術実用化への課題と提案/野尻・早稲田大学教授が講演


日本経団連の新産業・新事業委員会(高原慶一朗委員長、原良也共同委員長)は4日、東京・大手町の経団連会館で企画部会(鳴戸道郎部会長)を開催し、早稲田大学理工学総合研究センターの野尻昭夫客員教授(早大技術移転研究会代表)から、スピンオフ(企業が経営資源をベンチャーという形で分離させる手法)による技術の実用化に向けての課題と提案について説明を聞いた後、意見交換を行った。

野尻教授はまず、最近の技術・知的財産の移転について、「移転が行われているのは、ほとんどが中小企業間においてであり、大企業から中小企業への移転は進んでいない」と指摘。その要因として、(1)大企業には技術移転の担当者がいない (2)自前主義で技術を開発し、他社からの技術を考えない (3)移転をするという意識に欠けている (4)企業の特許の棚卸が十分ではなく、特許による収益を最大化するための知財総合戦略がない (5)互いの特許権をすべて使用許諾し合うクロスライセンスが重視され、個別の特許を活用しようとしない (6)政府による特許流通アドバイザー制度も一定の成果は挙げているものの、活用には限度がある――ことなどを挙げた。
また、技術・知的財産の移転を活発にするための策については、企業は、経営とリンクした知的財産総合戦略の立案や先進企業を紹介するセミナーの実施、知的財産ポートフォリオ、知的財産棚卸方法に関する調査研究・普及、知的財産戦略企画者の育成が必要であると述べたほか、「技術者のスピンオフによるベンチャー企業設立を通じた技術移転への支援も重要」と指摘。また、政府に関しては、技術移転見本市の開催への積極支援や、技術移転受皿機関の創設と支援を行うべきとの見方を示した。
さらに野尻教授は、技術・知的資産を中小企業に移転することや、技術者のベンチャー企業設立を支援する受け皿機関「産業技術活用センター」の設置を柱とする自らの構想を披露し、同委員会企画部会のメンバーに構想への評価を問いかけるとともに参加を求めた。

懇談では、「企業に死蔵されている技術、知的財産を活用することには経済社会的に大きな意義がある」との意見が出た一方、「技術を出すメリットが感じにくい」「いい技術ほどオープンにならないのではないか」といった課題の指摘があった。このほか、「技術を外に出さない理由は、『競争戦略上の意図』のほかに、『その企業にとって当該技術に対応する市場が小さすぎる場合』もある。後者の技術は中小企業にとっては有効な場合もある」「自らの企業で実現できない技術を持つ者の駆け込み寺はあり得る」「マッチングについて弁理士がもっと活用されるべき」「中小企業のニーズをキーワード検索できるようなデータベースづくりが有効」などの意見が出された。
最後に鳴戸部会長は、「野尻教授の取り組みは、日本経団連の提言内容を実現しようとする試みである」と述べ、構想の具体化に期待感を示した。

【産業本部産業基盤担当】
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