日本経団連タイムス No.2748 (2004年12月2日)

海外派遣成功サイクル構築へ報告書発表

−人選から赴任・帰任後まで、体系的人事管理を主張


日本経団連は11月16日、報告書「日本人社員の海外派遣をめぐる戦略的アプローチ〜海外派遣成功サイクルの構築に向けて〜」<PDF>を発表した。海外派遣の位置づけは、企業の業種や規模、海外展開のフェーズや地域などによって異なることから、一括りにはできないが、同報告書は基本的な方向性を整理することで、海外派遣を行う企業の参考となることが目的。国際労働委員会(立石信雄委員長)が、企業の事例研究などを重ねてとりまとめた。海外派遣を一過性のものとせず、企業のグローバル化進展のため、より積極的・戦略的に活用するために、人選から帰任後に至るまでの体系的な人事管理が必要であると主張している。
また、現地の人材を登用・活用する「現地化」の進展に伴い、海外に派遣する日本人社員の少数精鋭化が求められることから、拡大する日本人社員1人当たりの役割を果たすためにはどのような能力や要件が必要かを整理している。同報告書の概要は次のとおり。

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海外派遣をより戦略的に活用するということは、派遣本来の目的である現地の業務遂行に加えて、次のような3つの機能を持たせることだと考えられる。

第一は、現地の人材を登用・活用する「現地化」の課題に応えるために、日本から派遣される社員自らが、後継者づくりという形で、現地化の推進に積極的な役割を果たすこと。

第二は、海外派遣を、企業グループの経営を将来担うべきグローバルリーダーの育成あるいは選抜プロセスとして位置づけること。

第三は、人材の多様性実現という観点から、海外派遣経験者を日本企業の活力増大のために活用することである。

これらの機能を十分に果たす海外派遣を実現するには、人選から赴任中、帰任後に至るまでの体系的な派遣プランの構築が必要となる。すなわち、(1)人選にあたっては、全社的な人材育成プランとの整合性を持たせ、派遣の目的や期間を明確に示すこと (2)赴任前にはテクニカルなスキルの教育だけでなく、海外マネジャーとして求められるコンピテンシーに関する効果的な研修を行うこと (3)赴任中は適切な業務評価を行い、本社から十分な情報を提供して疎外感を抱かせないようにするとともに、不安を解消するための環境への適応支援を提供すること (4)帰任後の配属や社内への統合を計画的に行い、海外勤務経験を社内で十分活用すること――などである。

特にミドル・マネジメントに焦点を当て、期待される役割に照らして必要な能力や要件を考えると、業務遂行能力や管理能力、情報伝達と発信能力、コミュニケーション能力、異文化対応・環境変化への順応性、対人関係能力、リスクマネジメント能力、CSR(企業の社会的責任)などに関する意識、心身両面での健康、さらに、家族の適応力といったものが挙げられる。赴任前の研修においては、こうした能力の伸長に重点を置いたプログラムが必要である。

【国際労働政策本部国際交流担当】
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