日本経団連タイムス No.2756 (2005年2月17日)

「消費者団体訴訟制度導入」で提言

−経済界の基本的考え方を明示


日本経団連は15日、『「消費者団体訴訟制度の導入」に関する基本的な考え方』と題する提言を発表した。

近年、消費者にかかる商取引はますます高度化・複雑化しつつあり、消費者被害の発生・拡散リスクも高まっていることから、これを未然に防止することが、日本の消費者政策の重要な政策課題となっている。
こうしたことを踏まえ、内閣府の国民生活審議会(消費者政策部会)では、具体的な被害者の有無とは別に、一定の消費者団体が、消費者利益を害するような契約条項や勧誘行為など、企業の不当な行為に対して差し止めを求めることを可能にする「消費者団体訴訟制度」の導入に向けた検討を進めている。同審議会は2004年12月22日、「消費者団体訴訟制度の骨格について」と題する中間報告を発表、今後はさらに具体的な論点について検討を進め、06年の通常国会への法案提出に向けて、今年6月までに最終報告をとりまとめることとしている。
そこで日本経団連は、消費者団体訴訟制度に関する経済界の基本的な考え方を明らかにし、この考え方に基づいて、今後の具体的な制度設計が行われるよう働きかけていく必要があることから、今回の提言をとりまとめた。同提言のポイントは次のとおり。

1.総論

消費者被害の発生・拡散を防止することは重要である。特に昨今、悪徳事業者による架空請求・不正請求などの犯罪行為の拡大は社会問題化しつつあり、このような悪徳事業者の市場からの排除に向けて、行政機関や警察などの徹底した取り組みを強く求める。同時に、消費者契約にかかわるトラブルは、同種かつ少額の被害が大量に発生するという特徴があることを踏まえ、国民生活審議会において、差し止めにかかわる消費者団体訴訟制度の導入に関する検討が進められている。しかし同制度は、個々の消費者に代わって、直接の当事者ではない消費者団体に差し止めの訴えを起こす権利を特別に付与することになることから、わが国の民事訴訟制度に新しい考え方を導入することになる。また、訴権の濫用や悪用がなされると、健全な企業の正常な経済活動が損なわれるおそれがある。
そこで、同制度の導入にあたっては、わが国における民事訴訟制度などとの整合性や、制度の濫用・悪用の徹底排除の方策をはじめ、幅広い視点から精緻な議論を尽くし、国民の信頼に足る制度を構築する必要がある。

2.各論

以上のような基本的考え方に基づき、今後、国民生活審議会においては、次の方向で具体的な制度設計が行われることを求める。

(1)訴権の内容

消費者契約法では、個々の消費者には差し止め請求権が認められていないため、消費者団体に差し止め請求権を付与することは一定の意義がある。しかし損害賠償は、すでに個々の消費者が請求権を有するため、民事訴訟制度全体に及ぶ根本的議論と切り離して検討すべきではない。

(2)差し止めの範囲

差し止めの対象としては、消費者契約法上無効とされる契約条項および不当な勧誘行為が想定されるが、勧誘行為については、消費者の価値観が多様化していることや、個々の現場における具体的な営業活動として行われる場合が多く、個別性が高い。事業活動を不必要に萎縮させずに、実効性ある仕組みが可能かどうか、十分検討した上で、結論を出す必要がある。

(3)適格団体のあり方

消費者団体訴訟制度は、「消費者全体の利益擁護」という公益のための制度であり、行政機関に準ずる程度の公益性と、信頼性のある団体に訴権を付与することが制度への信頼性確保に不可欠である。その際の適格要件については、企業恐喝的な訴訟や、和解金目的の訴訟、競争事業者による悪用などを徹底排除し得る、厳格なものとすべきである。

(4)訴訟手続きのあり方を含む制度運営の円滑化

消費者団体訴訟制度は、あくまで民事訴訟の枠組みを利用するものであり、同制度における訴訟手続き(既判力の範囲、同時複数提訴の可否、管轄裁判所の決定など)は、現行の民事訴訟法の原則に従うのが妥当である。ただし、複数の消費者団体に訴権が認められる場合、重複訴訟や蒸し返し訴訟などが懸念されるため、濫用防止措置を設けることを検討する必要がある。

【経済本部経済法制担当】
Copyright © Nippon Keidanren