日本経団連タイムス No.2758 (2005年3月10日)

社史フォーラム開催

−講演などで長期社史編纂のあり方を学ぶ


日本経団連は2月24日、東京・大手町の経団連会館で「第3回社史フォーラム」を開催、全国から社史編纂担当者など約90名が参加し、「50年史」「100年史」といった長期社史の編纂のあり方を中心に学んだ。

『第一生命百年史』編纂顧問櫻井孝頴・第一生命保険相談役「社史編纂を楽しむ」

―枠にはめず自由にとらえる

同フォーラムでは、はじめに「社史編纂をたのしむ」と題し、日本経団連評議員会副議長で第一生命保険相談役の櫻井孝頴氏が、『第一生命百年史』の編纂顧問を務めた経験などに基づいて、書き手からみた社史のあり方について講演した。この中で櫻井氏は、社史の定義について、枠をはめず自由にとらえればよいとした上で、「強いていえば(現在生じている事態の解決法について)会社の歴史・経験に相談するための一種の辞書」であると述べた。

櫻井氏は、歴代の経営者について社史に記載するにあたっては、(1)その人物に惚れ込まず、嫌わず客観的に眺める (2)創業者の物語は面白いだけに、特に客観的に取り扱う (3)人物評価は、評価時点の価値観に左右されるということを肝に銘じる (4)現役経営者を賞賛しない (5)大改革を行った中興の祖より、目立たない経営者、すなわち微修正によって上手に企業運営を行った者の功績を見落とさない (6)面白さを求めず公平を第1とする――などの点に留意するべきだと指摘。また、会社が過去に行った決断や行動などについては、当時の価値観と現代の価値観の双方から評価するべきであり、そのような「複眼的視点をもってこそ、歴史が立体的に見えてくる」と語った。

社史をどう書き進めていくべきかについて櫻井氏は、「経営史の論文と経済小説の間」をめざすべきとの考えを示すとともに、「エピソードを集めて、それを歴史の中にどう位置付けていくかが鍵になる」と強調した。

櫻井氏は最後に、社史編纂に携わるべき人について、「自分の歴史観を持ち、緊張感と快感を持って社史を書けることが条件」と述べるとともに、社史を書くことは、戦後の高度経済成長の仕組みを解き明かすための貴重な資料を提供することになるなど、日本の経営史学に対して大きな貢献を果たすとして、「社史編纂者はそうした責務と誇りをもって作業に取り組んでほしい」と結んだ。

大津寄勝典・元『倉敷紡績百年史』編纂室長「百年史編纂のポイント」

―情報収集の苦労話など披露

続いて、元『倉敷紡績百年史』編纂室長の大津寄勝典氏が登壇、「百年史編纂のポイント―『倉敷紡績百年史』と私」と題して講演した。大津寄氏は完成に5年を要した『倉敷紡績百年史』を、どのような方針や体制、スケジュールで編纂したかを詳細に説明。各地の事業場や工場を訪問して、多数の社員・社友から情報・資料を収集した際の苦労や、関係各部との調整作業の経験、『百年史』では、それまでの年史で欠落していた部分を補うように注意したことなどを語った。

また大津寄氏は、「産業の遺物には、それぞれの企業や工場の人たちの創業以来の魂がこもっているのであるが、そうした遺物が情け容赦なく捨てられている」「毎日の仕事の軌跡が一国の文明の歴史であり、その歴史の意識がわれわれを前へ前へと突き進めていく精神的原動力となっている」という梅棹忠夫氏(国立民族学博物館名誉教授・顧問)の言葉を引用し、企業が社史を編纂することの意義を強調した。

武田晴人・東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授「執筆者をどう選ぶか」

―良い書き手の条件を示す

続いて東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授の武田晴人氏が、「執筆者をどう選ぶか―良い書き手の条件」について講演した。この中で武田氏は、社史編纂には企画や編集、調査、執筆、調整、交渉といった幅広い業務があり、これらすべてを処理する能力を1人の人間に求めるのは難しいと指摘。良いチームをつくって、会社全体の協力を得ながら社史編纂に当たる必要があることや、チームの中心となる担当者は執筆者ではなく、コーディネーター・ゲームメーカーであるべきことなどを語った。

また武田氏は社史の書き手について、(1)社史の書き手には社内の人間と社外の人間とがある (2)社内に書き手を求める場合には、1人に任せる場合と複数が分担する場合とがある (3)書き手が1人の場合は、全体として統一性のあるものができあがる反面、筆者の得意分野に偏りがちになるという問題点がある (4)分担で書く場合には各々が得意分野について執筆できるが、文体や文章量が不均一になるほか、重複や欠落部分が発生しやすい (5)社外の書き手には専門ライターと経済史・経営史研究者とがある (6)専門ライターは読みやすい社史を書くことに長けている反面、往々にして調査・分析に甘さがみられる (7)経済史・経営史研究者は学術的価値の高い社史を執筆するが、過度に学術的なものになるおそれがある――と説明。書き手を選ぶ際には、どういうねらいで社史を作るのかをはっきりさせ、それにかなった書き手を選ぶべきことや、書き手に条件を明示することが重要であることを指摘するとともに、さまざまな書き手を適切に組み合わせるのも、良い社史を作るための有効な方法であると語った。

フォーラムの最後には、日本経団連社会本部情報メディアグループの村橋勝子嘱託が、「本としての社史―利用と保存への配慮」について説明した。村橋講師は、日本文化の貴重な資料である社史を有効活用するためには、発行情報をオープンにすることや、社史を重点的に収集・保存している図書館に寄贈することが必要であることを指摘。さらに編纂・制作に際しては、(1)書名を統一し、きちんとした奥付を作成する (2)詳細な目次・索引・年表を掲載する (3)長期保存に耐える製本・装丁をする (4)社史担当部門や執筆者、制作スケジュールなどについて記載した編集後記を付する――ことなどが大切であると述べた。

【社会本部情報メディア担当】
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