日本経団連タイムス No.2768 (2005年5月26日)

「変化する東アジアと日米経済関係」

−米商工会議所と共催でセミナー


日本経団連は12日、米国商工会議所と共催のセミナー「変化する東アジアと日米経済関係」を、東京・大手町の経団連会館で開催した。

開会あいさつで奥田碩会長は、日米両国の通商戦略が東アジアの経済発展や貿易・投資の自由化にどのような影響を与えるか、また、中国におけるビジネス環境の整備がどのように進むかを探ることが今回のセミナーのテーマであると説明。その上で、(1)日本経団連としては世界貿易機関(WTO)の枠組みを通じた多角的通商の維持・強化に努めるとともに、戦略的に重要な東アジア諸国との間で、包括的で高い水準の経済連携協定(EPA)を締結することに強い関心を持っている (2)ASEANとの交渉や日中韓での議論を進め、日本経団連が提唱する東アジアの自由経済圏構想実現に向け着実な進展がみられることを望む (3)東アジア自由経済圏実現のためにも、また日米企業が事業活動を展開する上でも不可欠・重要な中国のビジネス環境の改善について、中国政府のWTO加盟約束順守への努力を高く評価するとともに、今後も努力が加速されることを期待する――との考えを述べた。

また、米国商工会議所のトーマス・ドノヒュー理事長兼CEOは、二大民主主義国家であり、二大経済大国である日米両国は、アジア・太平洋地域で、平和や安定、人類の発展を実現していくチャンスと責任とを有していると述べるとともに、世界規模で起こっている変化に、日米の経済界も緊密に連携しながら、迅速に対応していく必要があると語った。

「東アジアにおける日米の通商政策」

■第1部

セミナーの第1部「東アジアにおける日米の通商政策」では、アフラックジャパンのチャールズ・レイク副会長、東京大学大学院総合文化研究科の小寺彰教授、日本経団連の角田博参与が講演を行った。

「米国の東アジアにおける通商戦略」と題して講演したアフラックジャパンのレイク副会長は、米国の対外経済政策の最終目標は、世界各国の強力な経済成長の促進と繁栄にあると説明。米国の通商政策のフレームワークは、「米国の農家や労働者、事業者、消費者にとっての同じ土俵での競争条件の確保と機会の拡大」を政策目標に、自由化に向けた競争的プロセスの戦略的展開を図るため、多国間や地域間、2国間の通商課題に取り組み、法に基づき、透明性が高く、開かれた、明瞭な国際貿易システムを強化していくことなどであると述べた。
また、米国の東アジア通商戦略については、対日本戦略として、WTOの新ラウンド交渉(ドーハ開発アジェンダ)の推進や、規制・構造改革の推進などを、対中国戦略として、WTO約束事項の実行や為替問題などを挙げた。最後にレイク副会長は主要な経済パートナーであり、外交上の強力で戦略的なパートナーである日米が、WIN―WINの関係を前提に、通商政策における戦略的協調を拡大するのが「次なる政策展開」であるとして、今がその歴史的機会であることを強調した。

東京大学大学院の小寺教授は、講演「わが国の東アジアにおける通商戦略、EPAへの取り組み」の中で、日本の考えるEPAは包括的だが、アメリカのEPAの自由化の程度と比較すると、さほどハイスタンダードとはいえず、自由化よりも協力の要素が強いと指摘するとともに、EPAはWTOに取って代わることはできず、その補完の役割を果たすものであるとの考えを述べた。
また、東アジア共同体については、東アジア各国の経済発展の度合いや社会・政治体制に大きな違いがあること、人口が極めて多いことといった要素から考えてEUのような共同体の実現は難しく、FTAの緩やかなネットワークのようなものとなるとの見方を示した。

「日本経団連におけるEPAへの取り組み」について日本経団連の角田参与は、FTA・EPAとWTOを車の両輪として推進すべきとの考えに基づき、日本経団連は、日本と各国・各地域とのEPA交渉・協議の進捗に応じ、具体的な経済界の関心事項を日本の政府・与党や各国関係者に伝えるとともに、相手国の民間経済界との対話を進め、その実現を支援していると説明。さらにEPA推進に関する経済界の考え方と取り組みについて (1)「東アジア自由経済圏構想」の実現と排他性排除、域外への開放性・透明性の維持 (2)EPA推進における米国との協調 (3)日米EPAの可能性検討 (4)各国のビジネス環境整備の一環としての、日本のODA活用によるソフト・ハード面でのインフラ整備――などを挙げた。

「中国市場―日米企業が直面する挑戦と機会」

■第2部

セミナーの第2部は田中直毅・21世紀政策研究所理事長がモデレーターを務め、「中国市場―日米企業が直面する挑戦と機会」をテーマに講演や意見交換を行った。

まず元米国安全保障担当大統領補佐官のサミュエル・バーガー氏が登壇、「中国市場―挑戦と機会」と題して講演を行った。バーガー氏は、米国を除いた排他的なアジア経済共同体を構築することは、米国にもアジア諸国にも良い結果をもたらさないことを強調、東アジア地域の安定に米中日の3国が果たす役割は大きいと語った。

経済産業研究所フェロー、野村資本市場研究所シニアフェローの関志雄氏は「中国経済の現状と課題―中国経済の現状および展望、為替問題」の中で、現在の日中の産業は競合の関係にはなく、補完の関係にあると指摘、日本での衰退産業が中国に移行しているだけで、先端技術を要する産業では日本の優位は保たれていると述べた。
また、日本が中国側の関税障壁によって、中国での現地生産・現地販売をせざるを得ない分野の産業は、日中がFTAを締結すれば、日本国内での生産に戻るとの見方を示した。

中国のWTO加盟約束順守や、中国における知的財産権保護問題を含む「中国における貿易・投資上の諸課題」については、大川三千男・日本経団連アジア・大洋州地域委員会企画部会長が日本側スピーカーを、マイクロソフトコーポレーションのパメラ・パスマン副社長が米国側スピーカーを務めた。大川部会長は知的財産権や貿易権・流通権などに関する中国国内の改革を評価した上で、(1)中国のWTO加盟約束の履行については現場・末端における実行面での改善が不可欠である (2)日中経済関係のさらなる発展に向けた重層的な対話が必要である――ことを指摘。パスマン副社長は中国における知的財産権保護の、一層の強化を訴えた。

【国際経済本部北米・オセアニア担当】
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