日本経団連タイムス No.2771 (2005年6月16日)

第93回ILO総会開幕

−立石使用者代表、ディーセントワーク促進へ三者構成主義の重要性強調


ILO(国際労働機関)の第93回総会が5月31日、スイス・ジュネーブで開幕した。会期は6月16日まで。日本経団連は、立石信雄国際労働委員長を代表とする9名の日本使用者代表団を派遣している。9日には立石委員長が代表演説を行い、日本におけるディーセントワーク(人間らしい仕事)実現に向けての課題を指摘するとともに、ディーセントワーク促進のためには政労使三者構成主義が重要であることを強調した。また、6日には、3年に一度の理事選挙が行われ、鈴木俊男・日本経団連国際協力センター(NICC)参与が使用者側理事として4回目の当選を果たした。
世界の労働環境の急激な変化の中で、ディーセントワークをグローバルゴールとして改めてILOの活動の柱として位置づけ、その上で今後のILOの役割と活動のあるべき姿を加盟国政労使に問いかけるという内容の事務局長報告が、今回の総会に向けて発表された。この報告を受け、本会議では各国の政労使代表が今後のILOの活動のあり方について見解を述べた。

9日に代表演説を行った立石使用者代表は、ディーセントワークとは、国ごとの文化や労働観、あるいは経済発展の段階などを反映して、意味するものが大きく異なる相対的な概念であり、また、よりディーセントな状況を求めて常に進化を続けていくものであると主張した。その上で、日本におけるディーセントワークの課題として、若年雇用問題に触れ、若年失業率の上昇およびフリーターやNEETの増加は、国の産業競争力低下を招きかねない重大な問題であるとの認識を示すとともに、その解決のために必要なことは、若年者に努力が報われると感じられる希望ある仕事を創造し、提供していくことであると強調した。
また、ディーセントワークを追求する上で、政労使三者構成主義は重要な働きを担っており、これを理想的に機能させるには労使のイコールパートナーシップや相互信頼の確立が不可欠であると述べた。さらに、ILOには、三者構成主義が各国で機能するよう、各国労使団体のキャパシティビルディング支援のために技術協力などをこれからも積極的に行っていくことを求めた。

このほか、総会で行われている各技術議題の審議状況は次のとおり。

技術議題の審議状況

■第4議題「労働安全衛生のための促進的枠組み」(基準設定・第1次討議)

職場における労働者の疾病や負傷等の予防は、ILO活動にとって高い優先順位を持つ領域であり、ILOはこれまで17の条約、29の勧告などを策定してきた。本議題は、各国における労働安全衛生のさらなる取り組みを促進するため、安全文化の確立や国家プログラムの作成を奨励する枠組み文書の採択をめざすものである。
使用者側は、本議題が提出された経緯を踏まえて、新しい文書を規範的でない「宣言」とすべきであると主張したが、労働者側に加え、日本を含めた政府側も「勧告によって補足された条約」とするように求めたため、文書の形式は原案どおりとすることが決まった。
現在、ILO事務局が作成した原案に従い、逐条的な討議が行われているが、労働者側の修正要求が多く、白熱した討議となっている。

■第5議題「漁業分野における包括的国際労働基準」(基準設定・第2次討議)

本議題は、数十年前に採択された漁業分野における既存の条約・勧告に代わる、時代の変化に即した新たな基準の設定をめざすものである。
各国政労使は、新たな条約を作成することでは合意しているが、各論では意見に大きな隔たりが見られる。
船員居住設備などの規定を適用する基礎として、船の長さを総トン数で読み替えることで合意がみられているが、その対応する数値について、日本漁船(細長い形)が不利にならないようにという日本使用者の主張は認められなかった。
船内設備などを細かく規定した附属書の扱いについて、弾力的な運用を図るべきであるとの姿勢から、使用者側は勧告とすることを主張しているが、労働者側はこれを条約本体に入れるべきであると主張し、対立が続いている。

■第6議題「若年雇用の促進」(一般討議)

本議題は、各国労働市場において若年者が置かれている現状を検証するとともに、若年者のディーセントワークへの就業を促進する方策を検討し、また、若年雇用促進の観点から、今後、ILOがどのような活動をしていくべきかについて、広く討議を行うことを目的としている。
使用者側は、(1)若年雇用問題の解決へのアプローチは多様であり、国内事情によってさまざまな対応があるが、各国にとって意味のある結論を導く必要がある (2)問題解決には使用者側にも果たすべき責任と役割がある (3)問題解決への万能薬はないが、経済インフラの整備や、雇用促進のために有効な教育制度、起業家育成など共通のテーマがある――ことなどを主張している。
また、使用者側は、若年雇用促進に向けて、使用者、若者自身、教育者、政府などのそれぞれの役割について、16項目からなる具体案をまとめ、労使に提案を行っている。

◇ ◇ ◇

4日には国際使用者連盟(IOE)が企業の社会的責任(CSR)に関する特別総会を開催。西室泰三東芝会長やルイ・シュバイツァー・ルノー会長らがパネリストとして参加し、社会における企業の役割について活発な議論を展開した。同特別総会では、CSRへの取り組みには多様性があること、経営革新の道具として活用されるべきこと、CSRの議論にビジネスは積極的に参加して主導的役割を果たすべきことなどが確認された。

【労働法制本部国際関係担当】
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