日本経団連タイムス No.2773 (2005年6月30日)

第93回ILO総会が閉幕

−「若年雇用の促進」など各議題の討議結果


ジュネーブで開催されていたILO(国際労働機関)の第93回総会が、16日閉幕した。今回の総会では、昨年に引き続き漁業の労働基準について新たな条約作成をめざす討議が行われたが、でき上がった条約案は規範的で柔軟性に乏しいものとなり、全体会議での投票の結果、多数の棄権により採択されなかった。このほか、労働安全衛生促進のための枠組み文書や、若年雇用促進に関する討議などが行われた。各議題の主な討議結果は次のとおり。

【財政委員会】

2006〜07年度のILOの予算として、総額5億9431万米ドルが、経費節減を求める米国や英国政府など一部の反対があったものの、賛成多数で可決された。日本政府は棄権をした。06年の日本の分担比率は、05年と同じ19.485%となった。

【条約・勧告適用委員会】

批准した条約の適用が不十分なもののうち、特に深刻な25の案件が個別審査の対象となった。
また、昨年に引き続き、ミャンマーの強制労働に関する特別セッションが開かれた。委員会は、ILOに接触したことから反逆罪として死刑を言い渡された住民が釈放されたことを評価しつつも、全体としては依然状況が改善されておらず、もはや静観できない状況にあるとの認識に達した。そのため委員会は、各国政労使および関係機関が、2000年の総会で決議されたミャンマーとの関係見直しを改めて強化すべきであるとの総括的見解をまとめた。

【第4議題「労働安全衛生のための促進的枠組み」(基準設定・第1次討議)】

ILO活動において高い優先順位を持つ労働安全衛生分野におけるさらなる取り組みを促進するため、安全文化の確立や国家プログラムの作成を奨励する枠組み文書の策定をめざし、討議を行った。

使用者側は、新しい文書を規範的でない「宣言」とすることを要求していたが、各国政府および労働者側からの支持が得られず、原案通りの「勧告で補足された条約」の形式となった。一方、労働者側が主張した、安全衛生に関する既存の条約の批准を奨励する条項や、安全衛生に関する労働者の権利を定める条項の追加については、使用者側と多くの政府の反対によって見送られた。

討議の結果、労働安全衛生を促進するための国家プログラムや制度を作成するとともに、そのプログラムを経済開発など他のプログラムと連携させること、また労働安全衛生に関する自国の基礎情報を整備すること、などを内容とする条約および勧告案がまとまった。
今回の結果を受けて、来年は第2次討議が行われる。

【第5議題「漁業分野における包括的国際労働基準」(基準設定・第2次討議)】

古い時代に採択され、批准数も少ない漁業分野に関する国際文書(5条約、2勧告)を1つの文書にまとめることを目的とする同議題では、より多くの国に批准されるよう、包括的で柔軟性のある新たな条約および勧告の作成をめざして討議を行った。

漁船内居住区の天井の高さ、寝室1人当たりの面積など、漁船船内設備に関する細かい規定が当初から条約案の中に織り込まれていたことに対し、使用者側は、これらについては弾力的な運用を図るべきであるとの姿勢から、勧告とすることを主張したが、欧州を中心とする各国政府と労働者側の支持が得られず、条約案の中に残された。この例のように、概して委員会における条約案作成作業は一部政府と労働者側の主導で進められ、当初の狙いに反して世界の大半の小規模漁業者には適用しにくい、硬直的な内容となっていった。

委員会ででき上がった条約案の採択を問う全体会議の投票では、規範的で柔軟性を欠き、とても批准できるものではないとする日本を含むアジアを中心とした各国政府および使用者側が棄権に回った。その結果、賛成と反対を合計した票(有効投票数)が定足数にわずかに1票足りず、条約案が無効となる劇的な結果に終わった。
この結果を踏まえて、労働者側から07年の総会において新たな条約・勧告策定をめざす再度の討議を行いたいとの緊急動議がなされ、各国政府、使用者側がこれを了承したため、2年後の総会で再度この議題を取り上げることが、11月の理事会で決定される見通しである。

【第6議題「若年雇用の促進」(一般討議)】

若年者のディーセント・ワークへの就業を促進する方策を検討するとともに、若年雇用促進に資するILOの今後の活動を探るため、広く討議を行った。

当初、労働者側から、(1)若年雇用に関する憲章を策定すべきであること (2)若年者を含む全ての労働者が労働法規や社会保障の対象となるよう新しい国際労働基準を策定すべきこと――などの主張がなされていた。しかし、使用者側の強い反対などもあり、そうした労働者側の主張は委員会の報告には盛り込まれなかった。

討議の結果、先進国と途上国では様相が異なるものの、若年者のディーセント・ワーク就業促進のための共通対策として、各国において経済政策と社会政策を包含した総合的な取り組みが必要であること、雇用政策はもちろん、教育から就労に移行するための教育政策も重要であることが確認された。また、若年雇用促進のためのILOの活動計画として、(1)各国における好事例の収集などを通じた知識・情報の共有 (2)若年雇用促進のための国際的なキャンペーンの実施などの唱道活動 (3)途上国に対する若年雇用促進政策・プログラム提供の継続など技術援助――の3点が強調された。

◇ ◇ ◇

ILO総会期間中、アジア太平洋経営者団体連盟(CAPE)が7日に理事会を開催し、今後の活動などについて審議した。また、10日には国際自由労連アジア太平洋地域組織(ICFTU―APRO)とCAPE首脳陣とで懇談を行い、企業の社会的責任(CSR)について意見を交換した。CAPE側はCSRの取り組みにおける自主性と多様性を強調し、APRO側はCSRにおける労使関係の重要性を主張した。

【労働法制本部国際関係担当】
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