日本経団連タイムス No.2775 (2005年7月14日)

新産業・新事業委員会/米国の最新起業事情で意見聴取

−ペンシルベニア大学・マクミラン教授、日本の企業支援策に提言


日本経団連の新産業・新事業委員会(高原慶一朗共同委員長、原良也共同委員長)は6月30日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催した。同委員会が今年1月に2週間にわたって実施したベンチャー業界に関する訪米調査のフォローアップとして、ペンシルベニア大学ウォートンスクール・マネジメント学科学長のイアン・マクミラン教授から「米国のITバブル崩壊後のベンチャー業界の動向」について説明を聴取し、意見交換を行った。

マクミラン教授はまず、バブル崩壊にもかかわらず多くのベンチャーキャピタルが生き残った理由をベンチャーキャピタルの行動様式にあると指摘。事前に取り引き計画を組んだ後、一定の段階に達するごとに追加融資を行い、有望でないと判断したらすぐに融資を打ち切る――という厳しい融資方針が、投資額を最小限にとどめ、バブル崩壊による資金のロスを抑えたと説明した。また、「早めに失敗すれば割安な失敗で済み、前進につながる」との格言を紹介し、大企業によるベンチャー支援は成功に固執するあまり判断の機を逸する傾向があるという見方を示した。

さらに、現在のベンチャー企業への投資については、各ベンチャーキャピタルがバブル期以前に強みを持っていた分野への投資へと回帰するとともに、少額の投資で短期間のうちにキャッシュフローを得られる事業への関心が高い傾向にあると述べた。ベンチャー企業に流れる資金については、2004年には160億ドルに伸び、バブル以前の水準に戻ったというデータを紹介する一方で、現在の原油価格の上昇が投資の拡大に水を差す要因となりうる懸念があることを明らかにした。

また、学生の起業家教育については、起業を考えたことのない学生、起業意欲があってもスキルが未熟な学生に特に効果があるとの考えを示した。その上で、カリキュラムの一例として、大企業に埋もれている特許の利用権と事業資金の提供を受け、特許を生かした事業を立ち上げるという課題があることなどを紹介した。

質疑応答では、日本の産業クラスター形成について、クラスター自体は意図的に形成されるものではないとしつつも、横須賀リサーチパークのように核となる企業の進出が集積のきっかけとなるケースは日本の風土になじみやすいのではないかという見解を示した。また、政府のベンチャー投資については、投資経験が豊富なベンチャーキャピタルとの相互連携が成功の鍵となるのではないかと語った。

【産業本部産業基盤担当】
Copyright © Nippon Keidanren