日本経団連タイムス No.2788 (2005年10月20日)

提言「次期ICT国家戦略の策定に向けて」公表

−ICTの構造力改革により国家的・社会的課題を解決


日本経団連は18日、提言「次期ICT国家戦略の策定に向けて」<PDF>を取りまとめ、公表した。現在のe−Japan戦略に続く来年以降の次期国家戦略が年内から年明けにも策定される予定であり、内閣IT戦略本部において現在、検討が進められている。同提言は、次期戦略に産業界の意見を反映させるべく、まとめられたもの。現在、わが国では情報通信技術を表す語としてITが一般的であるが、国際的にはICT(Information & Communications Technology)が普及しつつあることから、同提言では、用語をICTで統一している。提言の要旨は次のとおり。

■現戦略で取り残されたICTの利活用推進

現戦略の下、日本では短期間に安価で高速なネットワークインフラが構築され、日本経団連がかねてより要望してきたe−文書法など情報化関連の法制度の整備も進んだ。
一方、ICTの利活用については、電子政府、医療、ITS(高度道路交通システム)、教育などの分野では、十分な成果が創出されていない。

■ICTによる行政・経済・社会システムの再設計を戦略の柱に

次期戦略では、産学官民が広く連携して、ICTの利活用を通じて、行政や経済、社会システムの再設計を図り、活力と魅力ある国家を実現することを理念とすべきである。
この理念の下、ICTによる国家的、社会的課題の解決や、産業競争力の強化、利用者視点に立ったICT利活用の推進、行政・立法・司法の抜本改革、安全・安心社会の構築、国際協調といった視点を次期戦略に盛り込むべきである。
次期戦略を着実に実現するためには、国民が成果を実感できる具体的な成果目標を掲げ、その実現に向け施策を実行する成果目標型の戦略への移行が不可欠である。戦略の推進体制についても、司令塔としてのIT戦略本部の機能を一層強化すべきである。その下で、戦略の成果の評価・検証を行い、次の政策立案につなげる、PDCAサイクルを確立すべきである。

■次期戦略の重点政策課題

次期戦略では、(1)少子・高齢化 (2)安全・安心 (3)地球環境問題 (4)小さな政府の実現 (5)産業競争力の強化――といった国家的・社会的な課題と連動する形で、医療、行政、移動・交通といった重点政策課題を取り上げるべきである。提言では、各々の課題について、具体的な成果目標、その実現に必要な施策を提示している。重要な課題をいくつか例示する。

(1)健康・医療

従来のカルテやレセプトの電子化といった医療事務の効率化の段階から一歩踏み込み、ICTを用いて、医療行為の改善を図り、医療費の適正化につなげる。そのためには、診療情報の外部保存を認め、カルテ等の医療情報を医療機関、支払機関、保険者、患者、薬局などがネットワーク上で共有可能な「医療情報ネットワーク」を構築し、医療行為にまで踏み込んだ分析、評価を行い、医療の標準化、最適化を図る。

(2)移動・交通

交通事故の死傷者数、発生件数を半減するなど、ICTを利活用して世界一安全で円滑な道路交通国家を実現する。そのために、ITSのモデル実証地区を選定し、IT戦略本部主導で法制度の大胆な見直しと予算の集中的な投入を行い、成功モデルを確立し、全国展開する新たな試みが必要である。

(3)行政改革

ICTを用いて行政手続・業務の削減、簡素化を図り、利用者の視点に立った電子政府・自治体を実現する。そのためには、電子化を前提とした形で行政手続や業務を大胆に見直す。また、引っ越し、年金の申請、起業など生活・ビジネス上のイベントごとに、利用者がワンクリックで一連の行政手続を簡単に完了できるポータルサイトを構築すべきである。

提言では、最後に、新戦略では、従来の「世界最先端のIT国家」に加え、「世界最先端のICT利活用国家」をめざすべきと締めくくっている。

【産業本部情報通信担当】
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