日本経団連タイムス No.2804 (2006年3月9日)

労使関係委政策部会を開催

−北浦・社会経済生産性本部社会労働部長から「生産性3原則」についての講演聴く


日本経団連の労使関係委員会政策部会(横山敬一郎部会長)は2月23日、第16回会合を開催した。同会合では社会経済生産性本部の北浦正行社会労働部長から「生産性3原則」についての講演を聴取するとともに、今年5月に発表予定の「労使関係委員会報告書」の骨子案について意見交換を行った。北浦氏の生産性3原則に関する講演要旨は次のとおり。

◇ ◇ ◇

生産性3原則とは雇用安定の原則、労使協調の原則、公正配分の原則をいい、昭和30年代の戦後復興とその後の日本経済が拡大していく中で、1つのイデオロギー的な役割を果たしてきた。しかし、生産性運動をとりまく環境は大きく変貌し、3原則の意味合いも今日的な状況の中で変化している。雇用の安定は雇用増大ではなく、雇用創出あるいはワークシェアによって確保されなければならない。また雇用形態が多様化したため、正社員だけでなく多様な人材の雇用を安定させることも重要な課題となった。
次に労使協議であるが、企業再編によって単一企業だけでなくグループ協議制という形で議論が行われる場合も生じてきた。協議事項においても労使協議の前段協議にとどまるものもあれば、広く経営問題について情報交換を行う場合もある。労働組合の組織率低下によって、労使協議を担う主体そのものが変質している。
公正配分の問題については、往時に比して所得水準が圧倒的に上昇しており、総額人件費が意識され、福利厚生費の見直しが進んでいる。一律的なベースアップという考え方はとりにくくなり、個別配分においても能力・成果・業績を意識した配分に変化した。

今後の生産性を考えてみると、まずその前提として知力、民力、環境力の3つの側面に留意することが大切である。知力とは経済的価値を生み出すもので、企業家精神を発揮できる個人の知識力をいう。民力とは社会全体の価値を高めていくもので、企業の社会的責任に代表される信頼構築能力を指し、また環境力とは環境問題を解決し、生活者の立場から循環型社会の実現に貢献する個人の共生力を指す。
一方、生産性3原則には普遍性が内在している。雇用関係は労使の信頼の基礎であり、雇用なくして労使の共同作業はあり得ない。労使協議は協議体制および協議内容ともに変化しているものの、経営は現場力を必要としており、協議・協力を通じた双方の高揚効果も期待できる。配分についても公正でない配分はいつの時代でも許されることはなく、とりわけ従業員が満足して職務に専念するためには、公正・公平が重要なファクターになっている。

こうしたことを踏まえた上で、各原則をめぐる新たな課題について考えると、雇用確保と安定はもちろんのこと、働きがい、働きやすさを高める観点や各個人の退職後も含めたキャリア支援の環境整備を通じて、雇用の質を向上させることが重要となる。労使協議のあり方については、労組の組織率が低下する中、労使協議の対象者をどこまでとするのかという「幅」の問題と、どこまでを協議事項の範囲とするのかという「深さ」の問題がある。特にCSRを軸として、ワーク・ライフ・バランスが今後その重要性を増すであろう。配分の問題については、能力主義と成果主義を調和させた日本型成果主義の考え方に沿って人事賃金諸制度を整備するとともに、セーフティネットの整備による「やり直しのきく」社会への方向性の模索が必要とされる。

【労働政策本部労政・企画担当】
Copyright © Nippon Keidanren